テレビ局の強みを生かしたXR体験を提供する「カンテレXR」の事業化を支援 « アーキタイプ株式会社

テレビ局の強みを生かしたXR体験を提供する「カンテレXR」の事業化を支援

アーキタイプ株式会社は、関西テレビ放送株式会社が行っている新規事業創出プロジェクト「カンテレイノベーションチャレンジ(KIC)」の事務局に参画し、新規事業の創出を支援しています。 2021年には、コンテンツ事業「カンテレXR」の事業化を支援しています。本事業はどのように事業化されたのでしょうか。「カンテレXR」のプロジェクトリーダーである山本道雄氏と、「カンテレXR」メンバーであり事業戦略部の東野和全氏、そしてKICを担当したアーキタイプの阿部傑に、インタビューを行いました。

調査研究を続けてきたXR技術を新規事業として立ち上げる

――まずは「カンテレXR」の事業内容についてお聞かせください。

山本様 VRやARといった映像技術を包括したXR(クロス・リアリティ)技術を手がける事業であり、ハードウェアの提供やコンテンツ制作などのトータルプロデュースを行っています。イベント事業者や自治体を主な顧客としたBtoBtoCのビジネスモデルで、ただ見るだけの展示ではなく、参加者が一緒になって遊んだり、学んだりできるような、インタラクティブなコンテンツを提供しています。

――「カンテレXR」は、どのような経緯から生まれたのでしょうか。

山本様 きっかけは、2017年にスタートした社内のワーキンググループ「カンテレXRLab」でした。当時成長分野として注目されていたVR技術の調査や研究するために、技術系メンバーが中心となって立ち上げたものです。和歌山大学観光学部との共同研究を経て、ドームシアターやヘッドマウントディスプレイを使ったコンテンツを手がけるようになり、研究活動でありながら自治体のプロモーションイベント等で収益を得る事例も生まれていました。これを本格的に新規事業にしようと、2021年にKICに応募しました。

――アーキタイプは、どのような形で事業化に携わったのでしょうか。

阿部 KICを立ち上げる際に、制度設計の段階から関わらせていただいています。他社のベストプラクティスも共有しつつ、関西テレビ様に合った形でプログラムを設計していった形です。応募が始まってからは事務局として携わり、PoC(実証実験)から事業化に至るまで、起案者の伴走支援を行っています。

「カンテレXR」の場合、起案の時点ではメンバーが山本さんおひとりでしたので、PoCが滞りなく進むようにチーム体制の強化もサポートしました。KICに応募された方から、本事業に興味がありそうな方にお声がけをして、制作、営業、CG技術の3分野に強い3名を加えた4名チームを編成しています。東野さんもその一人です。

東野様 私は関西テレビに入社以来20年以上番組制作に携わっていまして、「何か違うことをやりたいな」とKICに自分のアイデアを応募していたんです。残念ながらその案は選ばれませんでしたが、事務局から「こういうアイデアが通過したのですがチームに参加しませんか」とお誘いいただき、コンテンツ制作で力になれればと参加しました。

関西テレビ放送株式会社 経営戦略局 事業戦略部 「カンテレXR」事業 山本道雄氏

横展開しやすいコンテンツを制作し収益性向上を図る

――応募した案が採択されたあと、PoCまではどのような道のりだったのでしょうか。

山本様 最初のころは、ニーズの調査に力を入れていましたね。XRは場所を選ばないだけに、ニーズがあちこちに眠っている可能性があるんです。周囲にアドバイスをもらいながら、個人と法人の双方にインタビューをして、改めてニーズを探っていきました。

調査研究をしていたときは自治体を中心に展開していたのですが、インタビューの結果、他の分野にもニーズが多くあることが分かったのは大きかったですね。同時に、人を集めるにはコンテンツやIPが重要であることも見えてきました。

――PoCはどのように行われたのでしょうか。

山本様 イベント事業部の協力を得て、関西テレビが主催するファミリー向けイベントにXRコンテンツを提供しました。床に投影された氷に乗り続けるシアター型VRゲームを制作して、アンケートでもかなり高い評価をいただきました。コンテンツやCGは東野さんたちに作ってもらったのですが、イベント当日の設営やテストは私しかできないので、なかなか大変でした(笑)。

東野様 毎年、関西テレビでは夏休み期間にイベントを開催しているのですが、やはり見るだけの展示が中心だったんですね。過去のイベントでVRコンテンツを入れたこともありましたが、業界大手に外注したもので予算もかかっていた。ですので、そこまでお金をかけずにインタラクティブなものを作れた、という意義は大きかったと思います。

山本様 収益性の面でいうと、「いかに横展開できるか」もPoCのテーマでした。毎回ゼロからコンテンツを作るのではなく、ある程度汎用的なプログラムを作っておき、イベント内容に合わせて最低限の改修で横展開できるようにしようと。「足で踏んで遊ぶ」「ボールを投げて敵を倒す」といったシンプルな仕組みを作り、それをいかにイベントで遊んでもらえるものにするか……という開発を繰り返しました。

関西テレビ放送株式会社 経営戦略本部 経営戦略局 事業戦略部 兼 万博推進室 東野和全氏

事業計画や市場分析、投資回収計画のシミュレーションなどもサポート

――PoCの期間中、アーキタイプはどのようなサポートを行っていたのでしょうか

阿部 週1回のミーティングを通じて、現状の課題と次に何をすべきかを議論しつつ、事業計画書や財務シミュレーションなどのサポートもさせていただいていました。事業の特性上、大型のプロジェクターなどの設備投資が必要になるため、投資回収の計画も立てる必要がありました。どの程度の規模のイベントを何回やれば回収できるかなど、さまざまなパターンがあったため、複数シナリオでの検証を行いました。

山本様 財務シミュレーションについては慣れない部分があるので、アドバイスをいただいて助かりました。業界分析もしていただきましたよね。

阿部 そうでしたね。局主催のイベントだけでは、どうしても数が限られます。ビジネスモデルとして、どの業界にどうやって事業を広げていくべきかを、市場規模も含めて調査していました。

山本様 PoCを経て、事業化に至ったあとのブラッシュアップも、アーキタイプさんにサポートいただいています。ひとつは、ハードウェアの種類を増やすこと。インタラクティブな仕掛けができるシアター型や、大人数が一度に体験できるドーム型など、ハードにはそれぞれ特性があり、その種類を増やせば提案の幅も広がります。PoC後には、ARグラスなど新しいハードにもチャレンジしました。

もうひとつは、受託制作ではないビジネスモデルを開発すること。たとえばコンシューマー向けのコンテンツを作り、参加料を設定して遊んでもらうイベントも実施しました。また、ベンチャー企業との共同出資によって「自社出資コンテンツ」を作り、法人に販売するというモデルにも挑戦しています。

新たなニーズを発掘し、テレビ局の強みを打ち出す

――2023年2月に「カンテレXR」が事業化されてから、1年余りが経ちました。率直な感想をお聞かせください。

山本様 イベントも順調に回っていますし、企業からの受注もコンスタントにいただいています。一方で、いかに労働集約型から脱却して、事業をスケールさせるかが課題だと感じています。ハードウェアやビジネスモデルに手を加えつつ、新たな業界のニーズも発掘していければと。

阿部 事業の性質上、営業せずに売れていく商材ではないので、いかに認知してもらうかが課題のひとつだと認識しています。関連する展示会や、イベント、メディアの調査をしたり、どういった露出の仕方がベストかを一緒に検討させていただいているところです。

東野様 いわゆる課題解決型のビジネスではないところが難しいところですね。今回KICに関わるにあたり、「不足や不安、不要など『不』のあるところに新規事業の種がある」と学んだのですが、XRは「不」を解決するものというより、まだ見ぬ体験を提供するものなので。ただニーズは確実にあるので、番組制作で培ったプロデュース力や、出演者やキャラクターといったIPなどを活用して、テレビ局の強みを活かしていけたらと思います。

アーキタイプ株式会社 阿部傑

――最後に、今後の展望や、アーキタイプに期待されることがありましたらお聞かせください。

東野様 アーキタイプさんは、関西テレビにすごく相性がいいと感じますね。メンバーの顔ぶれを踏まえて担当者をアサインされていたり、お互いの意見を尊重しながら落としどころを見つけられたり、うまくコミュニケーションを図ってくださっている印象です。引き続きアーキタイプさんからサポートをいただきつつ、ニーズに合わせたコンテンツを作っていけたらと思います。

山本様 今はシアター型が中心なので、我々の強みでもあるドームシアターをもっと手がけたいですね。大型のものでは直径6メートルほどになるので、イベント系とはまた違ったニーズもあるのではと考えています。
KICに応募するまで、私自身ビジネスの“型”のようなものを理解していませんでしたし、テレビ局自体も放送以外の新規事業には不慣れなものがあると思うんです。ゼロから事業を立ち上げることは、やはり簡単なことではないでしょう。アーキタイプさんにはそのプロセスを丁寧に伝えていただいて、とても感謝しています。引き続きご助言いただけますと幸いです。

【関連リンク】
カンテレXR
https://www.ktv.jp/xr/

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