積水化学の新規事業創出プログラム「C.O.B.U.アクセラレーター」の事務局を支援
アーキタイプは、積水化学工業株式会社が推進する新規事業創出プログラム「C.O.B.U.アクセラレーター」に制度設計から携わり、事務局の運営サポートや参加チームの伴走支援などを行っています。本プログラムはどのように設計され、新規事業創出に貢献しているのでしょうか。 本プログラムを主催するイノベーション推進グループでグループ長を務めるイノベーション鈴木氏と、プログラム運営を統括するC.O.B.U.アクセラレーターユニットのユニット長を務める吉田圭佑氏、そして本プログラムを担当するアーキタイプの奥田鉄矢に、インタビューを行いました。
既存パッケージではなく、オリジナルの新規事業創出プログラムを
――「C.O.B.U.アクセラレーター」とはどのような取り組みなのか、改めてお聞かせください。
吉田様 積水化学グループすべての従業員を対象にしたビジネスコンテストです。第1期となった2023年度は206件の応募があり、書類選考で20名を選抜しました。その後「ステージ1」として、伴走支援を受けながら3ヵ月間の仮説検証を行い、ピッチ審査会を実施。さらに3名に絞られ、「ステージ2」では半年間にわたり市場検証などを行いました。最終的に選ばれた1名はイノベーション推進グループへ異動して、本格的に事業を立ち上げるという流れになっています。
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――本プログラムはどのような背景からスタートしたのでしょうか。
吉田様 積水化学はこれまで樹脂加工と住宅分野の高い技術力を強みとし、様々な製品やサービスを生み出し社会課題を解決してきました。しかし、変化の激しい不確実な世の中になっている今、スピーディーで柔軟な課題解決を行うために、これまでR&D機能が担っていた事業化の役割を分離し、1→10を担う組織として2020年に「新事業開発部」を新設しました。
さらに、R&Dテーマに加えオープンイノベーションや社会課題起点での事業創出を担う役割として、2021年に新事業開発部内に「イノベーション推進グループ」を設け、新たな事業を作り出す仕組み=新規事業創出プログラムを創ることになったのです。
とはいえ、新事業を立ち上げた実績もないのに、こうしたプログラムを作っても説得力に欠けてしまいます。そこで、まずは自分たちで事業を作ろうと、新事業創出に取り組むことから始めたんです。2年ほど経ち、ある程度ノウハウや知見が蓄積されたところで、2022年6月からプログラムの検討をスタートさせました。アーキタイプさんに入っていただいたのも、そのときからですね。
積水化学工業株式会社 新事業開発部 イノベーション推進グループ C.O.B.U.アクセラレーターユニット ユニット長 吉田圭佑氏
――プログラムの検討にあたり、アーキタイプを選ばれた理由についてお聞かせください。
吉田様 こうしたビジネスコンテストは、パッケージ化されている会社が多いものです。ただ、私たちのようなメーカーは既存の枠組みにうまくはまらないのではという懸念があり、「積水化学オリジナルのプログラムを作りたい」という強い思いがありました。これをご支援いただけるかが、選定基準のひとつでした。
鈴木様 また、時間の制約もありました。当初、新規事業開発とプログラム設計を並行させる計画でしたが、プログラム設計の着手が想定より遅れてしまいました。2023年度のスタート予定まで1年を切った状況で、また限られた予算内でご対応いただけるか不安でしたが、快く引き受けてくださり、大変感謝しております。
新事業に取り組む人を育て、文化醸成にも取り組む
――本プログラムの制度設計は、まずどこから着手されたのでしょうか。
吉田様 まずは「何のためにやるのか」「何を解決するか」といった根本の部分の言語化に時間をかけました。6ヵ月くらい、ほぼ毎週、顔を突き合わせて何時間も激論を交わしていましたね。アーキタイプさんにも、ここまで付き合っていただけてありがたかったですし、想いやビジョンを合わせられたことで、その後も同じ目線で運営ができていると感じます。
奥田 事務局の方々は「コンサルに丸投げしよう」という発想がまったくなく、すべてを「自分ごと」として捉えられているのが印象的でした。コンセプトやビジョンを定めることで、迷ったときに立ち返る場所ができたのは大きかったと思います。
――当初から「積水化学オリジナルのものを作りたい」という思いがあったとのことですが、オリジナリティはどこに表れているのでしょうか。
吉田様 ソフトウェアやサービスに特化した新規事業プログラムの場合、短時間で検証を済ませたり、市場に一旦出してから考えたり、といった手法をとりがちです。これらはメーカーにとってはハードルが高く、期間や予算、タスクの設定などを積水化学の実態に合うように作り上げています。
奥田 審査会でのプレゼンもすごく凝っていますよね。社内イベントとして全社に公開されるうえ、登壇する方がヒーローになるような形でステージ演出をされていて。
吉田様 そうですね。私たちは新事業を作り出すことと同じくらい、人を育てる、会社の文化を醸成することも重要だと思っているんです。新しいことに挑戦する文化を作るには、頑張った人がきちんと褒め称えられるべきですし、こうしてスポットライトを浴びる機会を用意するのも大事なのではないかと。
鈴木様 「C.O.B.U.アクセラレータープログラム」の「C.O.B.U.」は、Community Of Brave Unicorns(勇気を持って一歩踏み出すコミュニティ)の頭文字を取ったもので、人々を「鼓舞」するという意味も持っています。ですから、イベントを視聴した人が自分も一歩踏み出したいと思えるような舞台にしています。
積水化学工業株式会社 新事業開発部 イノベーション推進グループ グループ長 イノベーション鈴木氏
――文化醸成については、他にどのような取り組みをされてきたのでしょうか。
鈴木様 プログラムの開始前から、ゲスト講師を呼んで講演会を行うなど、新事業やオープンイノベーション関連のイベントを定期的に行ってきました。ゲストの人選含め、アーキタイプさんにはイベントの内容ひとつひとつに丁寧に対応していただき助かっています。
吉田様 第1期の募集前には、「認知度を高めていきましょう」と一緒に戦略を立て、キックオフイベントや役員のメッセージ動画配信といったプロモーションも行いました。応募数100件を目標としていたところ、倍以上の応募が集まりました。スタートダッシュはうまくいったのかなと思っています。
「我々も負けていられない」20名の伴走支援をやりきるマインド
――第1期の1年間を振り返って、印象に残っている場面はありますか。
吉田様 やはり「ステージ1」は大変でしたね。書類選考を通過した20名が一斉にスタートして、3ヵ月後のプレゼンまで進めなければならない。しかも、企画や新規事業に携わったことがない人がほとんど。20名の伴走支援を同時に行うのは、相当苦労した思い出があります。アーキタイプさんも、1人のメンターが複数案件を対応されていましたよね。
奥田 そうでしたね。そもそも、こうしたプログラムで20名を書類審査で通すのは、他に例がありません。書類の段階で可能性を閉ざさず、まず20名を通過させて、3ヵ月かけて後押ししていこうというのが、積水化学さまの姿勢。大変なことは承知のうえで、可能性に賭けてみようとしているわけですから、「我々も負けていられないな」と思っていました。
吉田様 ありがとうございます。プログラム名に「アクセラレーター(加速する)」と掲げている通り、起案者の背中を押すのが我々のスタンスです。とはいえ、起案者が立ち止まったとき、どこまでリードしてあげるべきなのかは未だに悩みますね。アーキタイプさんともこの1年で議論をしてきましたが、簡単に答えが出るものではないのだろうなと感じています。
アーキタイプ株式会社 奥田鉄矢
――第1期が終わり、社内からはどのように評価されているのでしょうか。
吉田様 活動を積極的に社内に発信したこともあり、この1年で多くの従業員の方に知ってもらえたと思います。ピッチ審査会を全社公開でオンライン配信をしたんですが、仲間が堂々とピッチをする姿に感動したという意見や、審査員とのやりとりを客観的に見れたことが学びになったというコメントも多く大盛況でした。「本気で事業化に取り組む制度なんだ」と受け止めてもらえたのではと感じています。
鈴木様 こうした新事業創出プログラム自体、積水化学では初に近い試みです。成果も生まれつつあるので、この流れを絶やさないようにやり続けます。
同じチームの一員として、できる限りのサポートを
――2024年度から第2期で、ブラッシュアップされた部分などありますでしょうか。
奥田 第1期は、応募数が想定を越えるという成果があった一方、集まったアイデアが玉石混合という課題がありました。第2期では、書類選考の時点でいかに企画の質を上げていくかが、ひとつのチャレンジだと考えています。
吉田様 第2期では募集期間を2ヵ月と長くとりました。早くに応募された方とは事務局がコミュニケーションをとり、募集期間内にできるだけアイデアをブラッシュアップさせています。また、新たに「ステージ0」として、全社員を対象とした研修プログラムも用意しました。アーキタイプさんに講師を務めていただき、企画創出スキルの底上げを図っています。
――最後に、アーキタイプのサポートについて、感じられることを率直にお聞かせください。
吉田様 「ステージ2」では、実証実験や有識者へのヒアリングなどが必要となるのですが、アーキタイプさんも起案者と一緒に現地に赴いて、メンバーの一員として取り組まれていますよね。アンケートでもメンターへの満足度がとても高く、相手に寄り添ったメンタリングをされているのだと感じています。私たちも、このプログラムを一緒に運営している仲間だと捉えておりますし、こうした関係性が築けていることに感謝しております。
鈴木様 私は以前からアーキタイプさんとお付き合いがあるのですが、アーキタイプさんは、私たちが経験や知見を蓄積できる形で進めて、最後は自走しアーキタイプさんを卒業できるようになることを目標とされています。この「卒業を前提」とされているところが、アーキタイプさんのよいところだと常々感じています。それと冒頭にも言いましたが、スケジュールや予算の面でも非常に柔軟に対応してもらえるのがありがたいです。
奥田 ありがとうございます。我々としても、いわゆる受発注の関係だけにとどまらず、「同じチームの一員としてどんな支援ができるか」を常に考えています。コンサルとしてトゥーマッチな部分があったとしても、「優先するのはゴールのほうだよね」と考えるメンバーがほとんどですね。こうしてアーキタイプのマインドを評価いただけるのは本当に嬉しいですし、引き続き第2期以降も携わらせていただければと思います。
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●アイデアを集め事業化する“仕組み”の裏側──積水化学工業、リコー、富士通が語る「新規事業提案制度」 | Biz/Zine(ビズジン) (bizzine.jp)