領域トレンドリサーチ
小売領域:省人化ソリューション
小売領域の第6回は、小売店舗における省人化ソリューションについてご紹介します。
小売領域の第6回テーマは、店舗でスタッフが行っていた業務を効率化・代替する「省人化ソリューション」についてご紹介します。
省人化ソリューションが注目される背景
人手不足の深刻化
厚生労働省の一般職業紹介状況によると、「商品販売の職業」における有効求人倍率は例年、全職業の平均を大幅に上回っており、深刻な人手不足が続いています。
2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、求人数が減ったことから、一時的に人手不足は緩和されましたが、中長期的には、少子高齢化による労働生産人口の減少が予測されており、将来再び人手不足が深刻化する可能性は大いにあります。
このような状況の中、テクノロジーを用いて人が行っていた業務を効率化・代替する省人化ソリューションは、小売業における労働力不足の解消の一助になると大きな期待が集まっています。
新型コロナウイルスによる行動様式の変化
2020年に発生した新型コロナウイルスの影響により、消費者の行動様式は大きく変化しました。
リアル店舗を持つ小売事業者にとって、影響の大きい変化の一つとして、消費者がコロナウイルスへの感染を避けるため、できるだけ人を介さないオペレーションを求めるニーズが高まったことがあげられます。
対面でのコミュニケーションができることに価値があるリアル店舗でしたが、人が業務を行わないこと自体が消費者への大きな価値となってきたのです。
このことは、多くの小売事業者が省人化ソリューションの導入を検討する契機となりました。
2020年7月に実施された日経新聞の調査によると、新型コロナの感染拡大を受けた今後の対策を尋ねたところ、17%の企業が「無人レジなどの省力化推進」と回答しています。
Amazonの無人決済店舗事業への進出
このような社会情勢を背景に、省人化ソリューションへの注目はさらに高まっています。この分野での具体例として象徴的なのは、Amazon Goではないでしょうか。
Amazon Goは、米Amazon.comが提供する無人決済方式のコンビニです。
購買のプロセスとしては、まず事前にユーザーは専用アプリをダウンロードし、クレジットカード情報を登録する必要があります。買物の際には、店舗入口のゲートでアプリ画面の2次元コードをかざし入店します。
その後、ユーザーは陳列棚に移動し商品をピックアップします。その際、天井や棚に設置されたカメラ、重量センサー、そして集音用マイクで、購入する商品が特定されます。最後に再度ゲートを通過すると購入が完了します。
Amazon Goは2018年1月にアメリカのシアトルで1号店を出店し、2021年1月時点で26店舗まで拡大しています。
2020年3月には、自社の店舗で改善を重ねた無人決済の技術「Just Walk Out」を、一般小売店向けに外販することが発表されました。なお、このシステムは専用アプリが不要で、クレジットカードでの使用も可能となっています。
Amazon Goのユーザーへの提供価値は「レジに並ばなくてよい買物体験」です。
そのためAmazonは、忙しい人が多く、レジ待ちが多く発生するオフィス街などの立地を狙って出店することで、競合である従来型の小売店との差別化を図っています。
Just walk out外販発表の数日後にその導入が決まった、アメリカの主要空港で売店を運営するOTG社はその代表的な例です。忙しい人が多く、レジ待ちが発生する空港という立地は無人決済店舗にも非常に相性が良いと考えられます。
省人化ソリューションの分類
Amazon Goの無人決済店舗をご紹介しましたが、小売店では、決済業務を含めた顧客対応はもちろん、商品管理、そして店舗管理など、幅広い業務を人が行っています。
それぞれの業務の効率化、代替に向けた取り組みとして、主に下記のような省人化ソリューションが開発・提供されています。
注目サービス・動向
ここからは、省人化ソリューションの中でも注目のサービスを2つご紹介します。
1.小型ドローンを使った商品棚管理「Pensa Systems」
適切なタイミングで商品を切らさず補充する商品棚管理は、販売機会損失を防ぐ上で重要な業務です。
従来、この業務は店舗スタッフが巡回し、目視で確認、対応していました。
Pensa Systemsはそのような業務の非効率を解決する、画像認識技術を搭載した自立制御型のドローンを開発しています。
ドローンは小売店舗の売場通路を飛行し、商品棚を撮影していきます。撮影された画像はAIが分析し、欠品や置き違えを認識、スタッフに補充を促すという仕組みです。
この仕組みだけ聞くと、自動制御で飛行するドローンが、スタッフのオペレーションや来店客の妨げにならないのか?安全面は大丈夫なのか?と思うかもしれません。
しかしながら、同社のドローンは人がいない場所を判別して飛行する仕様になっており、騒音も少ないことから、来店客にストレスを与えない購入体験を可能にしています。
また、プロペラが穴の開いた球体に覆われており、安全への配慮も徹底されています。
2.自店舗で改善を重ねたスマートショッピングカートを外販「トライアル」
トライアルは、九州を拠点に、全国261店舗のスーパーマーケットを展開する小売・流通企業です。
同社は「ITの力で流通を変える」という目標を掲げ、自社で開発したシステムを使い、低コストでの店舗運営を実現しました。
同社では、小売店における様々な業務領域においてシステムを開発しています。
今回はその中でもコロナ禍で注目を集める非接触の決済ソリューションの”スマートショッピングカート”についてご紹介します。
トライアルのスマートショッピングカートは、セルフレジ機能を搭載したショッピングカートです。
トライアル専用のプリペイドカードを登録し、カートについているバーコードリーダーでプリペイドカードのバーコードをスキャンすることで、カートが利用できるようになります。
来店客は、バーコードリーダーに購入したい商品を読み取らせ買物を進めていきます。買物中は、カートに搭載されているタブレットにお得なクーポン、おすすめのレシピ、商品のレコメンドが表示され、来店客に楽しい買物体験を提供します。最後に専用ゲートを通過して、レシートを受け取り、買物を完了する、という流れです。
スマートショッピングカートは顧客にとって以下のメリットがあります。
・レジに並ぶ必要がない
・非接触で感染リスクが低減できる
・クーポンがプレゼントされ、お得に買物ができる
店舗としては、レジ人員の省人化はもちろん、商品のレコメンドを個別に行うことができるため、客単価の増加も見込めるメリットがあります。
同社では、2020年7月より、自社で使用していたスマートショッピングカートの外販と運用実証実験を開始しました。1社目の外販先は山口県を中心にスーパーマーケットを展開する丸久社で、運営するスーパーマーケット1店舗で運用実証実験を行いました。
2020年11月のトライアル社のプレスリリースによると、丸久社が目標としていたスマートショッピングカート利用率20%を達成したとのことです。これにより、有人レジ1台分の代替が可能になるだけでなく、カート利用者の月間買上額が導入前後で7%増加し、売上拡大にも貢献しているということが証明されました。
この結果を受け、同社は今後さらに外販を進めていくと発表しています。
まとめ・考察
省人化と消費者への価値提供の両立
近年、Amazon Goをはじめとした無人決済店舗のソリューションの注目度の高まりを受け、世界的に多くのプレイヤーが出現しています。
特に中国ではBingo Box社をはじめ大量の店舗が出店されました。しかしながら、競合の店舗を超える便益を消費者に提供できず、閉店に追い込まれた店舗も少なくありません。
先に述べたAmazon Goでは、「レジに並ばなくてもよい買い物体験」という来店客の便益を最大化するために、最もニーズが大きいオフィス街に出店することで、既存の小売店舗との差別化を図りました。
経営として省人化できることは、非常に魅力的です。しかしながら、競合環境を踏まえ、提供価値を明確にし、いかに店舗を選んでもらうかというマーケティングの視点を持ち開発、導入を進めること、手段ありきにならないことが非常に重要になると考えられます。
実証実験店舗を用いたプロダクト開発の有用性
省人化ソリューションは、これから実用化に向けて開発が進められるプロダクトが多く存在します。
リアル店舗は顧客の導線や、店舗で生じる多岐に渡るオペレーションなど変数の多い環境です。
想定外の事象が頻繁に発生するこのような環境において、実際の環境でうまく機能するか、費用対効果が得られるかを検証する必要があります。
Amazon Goやトライアルは、初期プロダクト開発後に自社店舗を用いて実証実験を行い、改善を重ねて外販を行うに至りました。
まず、自社や協業先などの実証実験店舗に適用し、試行錯誤を繰り返すことで、プロダクトやオペレーションの現実的な解を導き出すというプロセスは、こういったリアルなオペレーションを代替するソリューションの開発では非常に重要です。
また、この実証実験店舗がプロダクトのショーケースとしての役割も果たし、外販における説得力にもなるのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。これまで6回にわたり小売領域のサービストレンドを紹介しました。
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