領域トレンドリサーチ
育児領域:妊活・妊娠期支援
キャリア形成と出産・育児両立の難しさ
妊活・妊娠期領域の代表的な課題として、
まず女性のキャリア形成と出産育児を両立する難しさが挙げられます。
15〜24歳をキャリア探索段階、25〜44歳をキャリア確定段階とすると、その期間と重複するように女性の妊娠適齢期(20代前半〜30代前半)が存在しています。
もし、20代前半〜30代前半の妊娠適齢期にキャリア形成を優先し、ある程度キャリアが確定し始めた頃に妊活を始めたとしても、35歳以上は高齢出産に該当し、流産などのリスクが上昇します。
このように、女性は年齢的リミットを抱えながら限られた期間の中でキャリア形成と出産のタイミングを見極めなければならない状況にあります。
不妊治療の課題
女性の社会進出などを背景に、不妊治療件数が増加傾向にありますが、
この不妊治療にも多くの課題が存在します。
2007年時点での平均初婚年齢は女性28.3歳、男性30.1歳でしたが、2017年には女性29.4歳、男性31.1歳と、男女ともに晩婚化が進行しています。
さらに、第一子出生児の母の平均年齢は、2007年の29.4歳に対し、2017年には30.7歳と、晩産化も進行しています。
晩婚化・晩産化が進むとともに、不妊治療費助成件数は2007年44,395件から2017年には139,752件に増加するなど、不妊治療件数も増加しました。
ただし、不妊治療を始めれば必ず子どもを授かることができるわけではありません。にもかかわらず、卵巣の発育観察のためなど、男性より通院回数が多くなりやすい女性は、急遽仕事を休む事が増えたり、不妊治療を理由に働き方を変更したり、退職を余儀なくされたりと、仕事との両立に難しさがあります。
不妊治療を原因とした不妊退職による経済損失は2,083億円にものぼると言われており、社会全体としての課題となっています。
加えて、男性の意識の低さも課題と言えます。WHOによると、不妊症とされる夫婦のうち、約48%が男性側にも原因があるとされています。
一方でリクルートライフスタイルの調査によると、精液検査の経験がある男性は13.0%に留まり、検査をしない理由としては「自分に問題があると思わないから」が最も多い回答でした。
不妊症は女性が原因と思われやすいですが、男性も不妊原因になり得るという認知の低さも、課題を深刻化させる一因となっています。
妊活・妊娠期領域の課題・ソリューションマッピング
今回、妊活・妊娠期領域の課題と、対応するソリューションのカテゴリ・手法を以下のように整理しました。
不妊治療期、妊産婦期に多くの課題が存在し、中には働き方や栄養摂取等、妊活・妊娠期を横断した中長期的な課題も見られます。
妊活・妊娠期 支援サービス全体像
先に示した課題マッピングをもとに、妊活・妊娠期 支援サービス全体像をまとめました。
妊活期の中でも、セルフケアサービスでは、ユーザー数2億人規模の月経トラッキングアプリや、検査キット・サプリメント販売サービス等が代表的です。
不妊治療の段階になってくると、不妊治療特化のトラッキングアプリや、卵子凍結治療、不妊治療費を福利厚生として提供するサービス等、不妊治療特有の専門的なサービスが登場してきます。
妊産婦支援サービスでは、母体及び胎児の健康モニタリングサービスや通院負担を軽減するオンライン診療サービス等が代表的なものとして挙げられます。
注目サービス・動向
注目する妊活・妊娠期 支援サービスや動向についてご紹介します。
毎月199ドルからの予防不妊治療サービス「Prelude Fertility」
Prelude Fertilityは、不妊症になる前の選択肢として、卵子凍結を推奨する予防不妊治療サービスを提供しています。
連続起業家Martin Varsavsky氏が、自身の不妊治療経験から発想したサービスで、「妊娠できる健康状態だが、直近で妊娠の予定がない20代後半から30代半ばの男女」をターゲットに、予防不妊治療を提供しています。
一般的に不妊治療で体外受精をする際、高額な治療費が不安視されますが、Prelude Fertilityは卵子と精子の凍結、遺伝子検査、胚の作成、単一胚移植を含む4ステップのプロセスをパッケージ化し、毎月199ドルの低価格で不妊治療準備を始められる点が特徴です。
胎児の心拍数測定装置や遠隔医療プラットフォームを展開する「メロディ・インターナショナル」
メロディ・インターナショナルは、分娩監視装置iCTG「Melody i」や、地域連携ネットワーク「Central i」を活用し、妊娠22週から出生後7日未満の周産期に遠隔医療プラットフォームを展開しています。
周産期遠隔医療プラットフォームの構築により、医療施設や医師の場所を問わず、遠隔で母子の健康をモニタリングできます。
顧問として、現在世界標準となっている分娩監視装置の基本原理の発明者、原量宏氏と竹内康人氏が就任しており、提供する分娩監視装置iCTG「Melody i」は従来のNST・分監と同じ認証医療機器となっています。
※NST…ノンストレステスト。妊娠36週以降、胎児にストレスがかからない状況で胎児の心拍数と母体のお腹の張り(子宮収縮)を測定する検査。2種類のセンサーをつけて測定を行う。
※分娩監視装置…NSTで測定した2種類のデータをグラフ化し、胎児の健康状態をモニタリングする機械。
NSTを測定する分娩監視装置iCTG「Melody i」は従来の分娩監視装置とは異なり、電源不要な充電式のためコンパクトかつ持ち運びが自由になり、救急車やドクターヘリ、モニター設備のない離れた病棟でも測定可能になりました。
また、医師指導の下、妊婦さんにMelody iを貸し出し、自宅のリラックスした状態でNSTの測定も可能です。
分娩監視装置iCTG「Melody i」に加えて、オプション提供の地域連携ネットワーク「Central i」を活用すると、測定結果の院外閲覧や提携クリニック、助産院とデータ連携が可能になります。
企業向け不妊治療費給付プログラム「Carrot Fertility」
一般的に、不妊治療の保険適用には不妊症診断が必要になりますが、LGBTQ+や配偶者がいない場合、不妊症診断が難しいという欠点があります。
そこで、Carrot Fertilityは、年齢、性別、性的指向、性同一性、または配偶者の有無に関係なく、不妊治療に低コストでアクセスできるよう、企業向け妊活プラットフォームを提供しています。
不妊治療には約5,000〜50,000ドルの費用がかかると言われており、経済的理由により不妊治療を断念する人が少なくありません。
Carrot Fertilityのプラットフォームを活用すると、従業員は毎年10,000ドルを割り当てられたデビットカード「Carrot Card」を使用して治療費を支払うことができるので、治療費の借金や払い戻しを待たずに済むようになりました。
誰でも平等にサービスを利用でき、専用のデビットカードで利用者の金銭的負担を軽減出来ることから、例えば食品ブランドClif Bar や、Snapchatを展開する多国籍テクノロジー企業Snap Inc.など数多くの企業で導入されています。
男性向けコンプレックス商品を販売するD2Cブランド「hims」
himsは、薄毛やEDなど、男性特有のコンプレックスに特化した健康商品を販売するD2Cブランドです。
不妊治療の中でも、初期的な治療法であるタイミング療法では、女性の排卵日に合わせて妊娠を試みることがアドバイスされますが、男性はタイミング療法に義務感やストレスを感じやすく、性機能障害に繋がる場合があります。この場合の対応策として、ED治療薬を服用するという選択肢があります。
しかし、ED治療といえば50〜60代男性のイメージが強く、薬を処方してもらうにも若い男性は特に恥ずかしさを感じる人も多くいます。
そこでhimsは、EDなどセンシティブな話題についてポジティブな対話が行われるようカジュアルで明快、オープンなメッセージを込めたブランディングを行っています。
公共交通機関での広告では、多様性に富んだモデルを起用したり、洗練されたパッケージ商品を大きく掲載したりと、一見ED薬の広告には見えないような世界観を徹底していました。
パッケージのデザイン性も高く、SNSでパッケージをシェアする人も現れています。
また、特徴的なのはオンライン完結型のUXです。ユーザーがED薬をオンラインで注文し、医師とオンライン問診を受けた後、自宅のポストに届くという流れになっているため、ED治療していることを周りに知られたくないというユーザーのコンプレックスにもしっかりと配慮されています。
販売する薬品は、特許切れの医薬品を使用して安価に販売しており、バイアグラのように2020年まで特許が切れない薬品については、ジュネリック医薬品メーカーと提携して価格を抑えることに成功しています。
himsは2017年設立し、2019年1月には11億ドルの企業価値でユニコーン入りを果たし、スピード成長を遂げました。
月経トラッキングアプリ「Meet You」
Meet Youは、中国のMeiyouが展開する月経トラッキングアプリです。
2013年4月、ユーザーからデータを収集して月経の期間を予測し、安全な期間と排卵の受胎期間を通知する月経トラッキングアプリをスタートしたのですが、後に、妊娠、育児、美容やダイエットなどについて語り合うSNS機能を追加しました。
その後、EC機能を追加し、中国最大の女性向けプラットフォームへと成長します。
現在、Meiyouのユーザーは2億人を突破し、中国のユニコーン企業トップ100の1つに選ばれています。
多くのユーザーに選ばれる背景として、徹底したユーザーヒアリングと女性目線のUI/UXが挙げられます。
例えば、ひと目で「月経トラッキングアプリ」とわかりやすいアプリを、スマホの見えやすい位置に配置するのは恥ずかしい、というユーザーの意見から、月経トラッキングアプリに見えないよう、アイコン画像にグレープフルーツ柄を採用したり、「より美しいあなたに会えますように」という意味を込め「Meet You」と月経トラッキングアプリらしくない名前を名付けるなど、ユーザーヒアリングをもとにデザインを決定していきました。
SNS機能を追加する際も、女性はおしゃべりやゴシップを好む傾向にあるということで、トラッキングアプリにコミュニケーション機能を拡張していきました。この判断は正しく、SNS機能を追加したことにより、ユーザーの定着率、活動性が向上し、Meet Youのユーザー獲得歴の中でも、最も多くのユーザーを獲得しました。
まとめ・考察
従来、不妊症になってから治療を始める不妊治療が一般的でしたが、Prelude Fertilityのように、不妊症になる前の予防不妊治療サービスが生まれています。
不妊症も一般の疾病と同様に、治療医療から予防医療へサービス拡大が見込まれるのではないでしょうか。
メロディ・インターナショナルは、妊娠22週から出生後7日未満の周産期に遠隔診療サービスを提供しています。
周産期遠隔診療が広がることで、妊産婦の通院負担・精神負担が軽減されるとともに、医療従事者たちの過重労働軽減やリモート勤務実現に繋がるのではないでしょうか。
Carrot Fertilityは、年齢、性別、性的指向、性同一性、または配偶者の有無に関係なく、不妊治療に低コストでアクセスできる企業向け妊活プラットフォームを提供しています。
価値観や生き方が多様化している今、固定観念に囚われず、平等に誰もがサービスを享受可能な設計を意識することが重要になってくるでしょう。
男性向けD2Cブランドhimsや月経トラッキングアプリMeet Youは、徹底したユーザー目線のUI/UX設計により、多くのユーザーを獲得し、ユニコーン企業へと成長しました。
不妊症原因の約半数は男性側に存在していますが、まだまだ社会的認知は低く、対応するサービスは限定的です。
それゆえに、今後の市場拡大の余地があると考えられる一方で、センシティブな分野であるため、プロダクトやマーケティング手法を検討する際は、徹底した男性目線のUI/UXを意識する必要があるでしょう。
いかがでしたでしょうか、今回は1.妊活期/妊娠期向けサービスを紹介しました。
次回は、2.知育サービスについて紹介します。