イノベーション組織研究8: Cardinal Health Fuse | アーキタイプ株式会社

イノベーション組織

イノベーション組織研究8: Cardinal Health Fuse

2019/01/09

医療と技術革新を結びつけるイノベーションラボ「Fuse」

今回は、医療ソリューションをグローバルに展開しているCardinal Healthのイノベーション組織「Fuse」についてご紹介します。

Cardinal Healthは、世界中に50,000人を超える従業員を抱えるグローバル企業で、高品質な医療機器や医薬品の開発、医療現場向けの物流ソリューション、業務効率化ソリューションの提供を行なっています。また、日本においても、血管内治療用のバルーンカテーテルをはじめ、複数の医療機器を医療現場へ提供しています。

今回ご紹介するFuseは、複雑な医療分野において継続的にビジネスを生み出すことを目的に、2014年5月にオハイオ州ダブリンにて発足したCardinal Healthのイノベーションラボです。

Fuseは、 “人”を中心とした視点で、新しいヘルスケアのソリューションの創出を目指しており、戦略分野として、”Transitions of care(データ共有などによる患者ケアの移行支援)”、”Adherence and wellness(総合的なウェルネスシステムの開発)”、”Advances in treatment(革新的な治療法)”、”Effective care delivery(効率的な医療システムの提供)”の4つを掲げています。

また、Fuseの従業員は「Fuser」と呼ばれており、Fuserの多くはエンジニアやサイエンティスト、デザイナーなどのスペシャリストです。医療・ヘルスケア業界以外の出身者もFuserとして採用されており、多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。

新規事業を生み出すための組織であるため、設立前には他企業のイノベーションラボが多く存在するシリコンバレーやボストンに拠点を置く案も出ていたようですが、オハイオ州ダブリンにあるCardinal Health本社には優秀な技術者たちが在籍していることや、シニアエグゼクティブが定期的に通える場所にすることを踏まえ、本社近くに設立されました。

イノベーションのプロセスと特徴


Fuseは、イノベーション創造のプロセスに人間中心主義、デザイン思考のアプローチを活用しており、アイデアと可能性を模索する「EXPLORE」、実証を行う「EXPERIMENT」、パイロットテストを行う「PILOT」の3段階を掲げています。

このプロセスの中でも、「EXPERIMENT」に特に注力しており、Fuserたちは積極的にイベントに参加したり、定期的にユーザーとのミーティングを実施したりすることで、想定ユーザーからプロトタイピングに活かせるインサイトを集めています。

Fuserが「EXPERIMENT」に注力している例として、Cardinal Health RBCと呼ばれるカンファレンスでヒアリングを実施していることが挙げられます。Cardinal Health RBCは調剤薬局をターゲットにしたイベントで、過去には3日間で400の出展者と1万人の参加者を集めた、同領域で最大規模のビジネスカンファレンスです。

2016年に開催された「Cardinal Health RBC 2016」では、Fuseも展示フロアの一角にショールームを構え、様々な製品をユーザーに試用してもらい、フィードバックを集めました。

このように、Fuseはスタートアップの事業開発メソッドであるリーンスタートアップ、アジャイル開発を取り入れたプロセスで新規事業創出に取り組んでいます。

これまでのプロジェクト事例

薬局や薬剤師の業務改善ソフトウェアサービス「MedSync Advantage」

MedSync Advantageは、Fuserがオハイオ州サークルヴィル地域の薬剤師などへヒアリングを重ねて開発されました。

薬の処方が必要な患者の管理サポートツールであり、既存の薬局管理システムとの統合や、日/月の使用状況分析機能、分析レポート機能、Cardinal Healthの患者管理プラットフォームとの連携機能などが実装されています。

薬剤師はMedSync Advantagを利用することで、患者への薬の処方を毎月同じ日にちに調整できます。これにより効率のよい処方サイクルが生まれ患者のアドヒアランスを高めるだけでなく、薬局の在庫管理改善などの副次的メリットも生まれています。

服薬サポートソリューション「InPower」

「InPower」は、服薬の時間になるとアラートを発する投薬管理スマートディスペンサーです。通信機能もあり、薬局のポータルシステムと連携することで、患者の服薬モニタリングをより高精度に行えます。また、他のスマートデバイスと連携することも可能で、血圧モニターや体重計、血糖値計からデータを吸い上げ、服薬データと統合することで、より高度な患者の健康管理を実現します。

現在開発中ですが、業務改善にとどまらず、治療領域に入り込んだプロダクトだと言えます。

イノベーション組織マッピング


Fuseは、開発に必要なエンジニアやサイエンティストなどのリソースを社内に抱えていますが、必要に応じて外部パートナーとの協力も行うとしています。また、医療領域の中で新しいソリューション開発を目指しており、事業ドメインは既存事業の強化につながる領域といえます。

まとめ

いかがでしたか、今回はCardinal Healthのイノベーション組織Fuseを紹介しました。

Fuseは顧客の声を聞きながらプロダクトを開発することに注力していることが特徴です。

特に、Fuserと呼ばれるスペシャリスト達が直接イベントに参加したり、ユーザーとのミーティングを行ったりすることで、ユーザーからのインサイトを収集している特徴があります。

 

また、法律による規制をはじめ制約が多い医療・ヘルスケア領域においても、デザインシンキングやリーンスタートアップ手法を用いた実験的なサービス開発を行なえるということも注目すべきポイントです。

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