イノベーション組織
イノベーション組織研究9: Lowe’s Innovation Lab
INDEX
Lowe’sのイノベーションハブ「Lowe’s Innovation Lab」
今回はアメリカのホームセンター大手Lowe’sのイノベーション組織「Lowe’s Innovation Lab」についてご紹介します。
Lowe’sは、主に住宅リフォーム事業・生活家電小売事業を手がけている企業で、アメリカとカナダで2,000店近くのホームセンターを展開しています。創業は1921年と古く、アメリカではホームデポに次ぐ事業規模を誇ります。
そんなLowe’sのイノベーションラボ「Lowe’s Innovation Lab(LIL)」は2014年に設立されました。拠点はシアトル、ノースカロライナ、インドのバンガロールに構えており、AR、VRやロボティクス技術を活用し、Lowe’sのビジネスを拡張させるイノベーションを創出することを目的としています。
LILはファストカンパニー誌の「AR/VR分野の最もイノベーティブな企業」分野で紹介されたこともあるなど、その先進的な取り組みが注目されています。今回はそのユニークなイノベーション創出手法と、LILから生み出されたプロジェクトを紹介していきます。
「Narrative-Driven Innovation」と呼ばれるアイディエーション手法
LILはイノベーションシーズ創出のために、「Narrative-Driven Innovation」と呼ばれる手法を取り入れています。Narrative-Driven Innovationは、その名称からも伺えるように、物語ベースでアイディア創出を目指すというユニークな手法です。特に特徴的なのが、アイディエーションとその共有に「漫画」を活用していることです。
漫画を制作しているのはLILに所属しているサイエンスフィクション作家たちです。 彼らは社内データを詳しくチェックしたり、エンドユーザーへのインタビューを直接聞くことで、Lowe’sの現状や目指すべき姿についてインプットします。そして、インプットを基に「未来に何が起こりうるか」をテーマにした物語を創作します。その後、物語は漫画化され、LILが取り組むべきプロジェクトの「戦略指南書」となります。
漫画にすることで難解な用語を避け、経営層を含む読み手にとって、取り組むべきプロジェクトの共通認識を得やすい資料となっています。そして、LILはこの「戦略指南書」を元に様々なプロジェクトに取り組んでいます。
これまでのプロジェクト事例
ここからは、「Narrative-Driven Innovation」手法を活用しLILで誕生したユニークなプロジェクトを紹介していきます。
「Holoroom Test Drive」
まずは、VRを活用したツールの「Holoroom Test Drive」です。Holoroom Test Drive は、VRヘッドセット「HTC Vive」と専用コントローラーを活用することで、仮想空間上で電動工具が試運転できるサービスとなっています。電動工具の使用感がイメージしづらいという顧客をターゲットにサービス化されました。
また本サービスは、インドのVR/AR企業であるKrayonikと共同開発されました。LILでは「Collider」というプログラムを通じて外部企業の協力を募っており、Krayonikも本プログラムを通じて共同開発に至っています。
「Holoroom How to」
「Holoroom How to」は、VRでDIYのトレーニングができるサービスです。こちらも「HTC Vive」とコントローラーを活用することで顧客は仮想空間上でDIYの疑似体験ができます。
2種類の「Holoroom」サービスは、数年前にNarrative-Driven Innovation 手法から着想を得ており、VRヘッドセットOculus Liftが初登場する5年も前からアイディアが存在していました。
「Exosuits」
Exosuitsは、バージニア工科大学と共同で開発されたカーボンファイバー製のパワースーツです。小売店舗などで従業員が重い荷物を運ぶ際に筋力サポートする機能が備わっています。
イノベーション組織マッピング
Lowe’s Innovation Labでは「Collider」プログラムを通じて、共同開発先となる外部企業を常時募集しています。また、事業ドメインは、AR/VRやロボティクスの技術を活用しつつ既存事業を拡張するイノベーション創出を目指しています。
まとめ
いかがでしたか、今回はLowe’sのイノベーション組織Lowe’s Innovation Labを紹介しました。
Lowe’s Innovation Labはアイディア創出やその共有のために漫画を活用しています。
実現したい未来の姿を分かりやすく共有するためにサイエンスフィクション作家を採用し、漫画を通じて共通認識を生みだしている点は注目すべきではないでしょうか。
また、主な市場は北米でありながら、イノベーション組織をインドのバンガロールにも設置し、現地のスタートアップとの協業を図っている点も特徴と言えます。