イノベーション組織
イノベーション組織研究5:メットライフ LumenLab
INDEX
保険業界のディスラプトを目指す 「LumenLab」
今回は、アメリカ最大の生命保険会社メットライフのイノベーション組織「LumenLab」をご紹介します。
LumenLabはメットライフの歴史で初のイノベーション・センターであり、2015年7月設立の比較的新しい組織です。組織名は、明るさの単位である「ルーメン」に由来し、「保険業界に存在する様々な課題を解決するための道のりを照らす」というミッションを示しています。レガシーな保険業界で、テクノロジーやデータを活用して新しい製品・サービスを構築することを目的に設立された組織です。
また、LumenLabは拠点をシンガポールに構えており、これには今後のアジア地域での保険ニーズ増加を見越し、アジア中心のサービス展開にいち早く取り組む狙いがあります。
Zia Zaman氏とユニークなチームメンバー
LumenLabのCEOを務めるのは、Zia Zaman氏(写真左)です。同氏は、メットライフのアジア地域CIO(チーフ・イノベーション・オフィサー)も兼任しています。
Zaman氏は米国のコンピューター企業サン・マイクロシステムズのM&Aチーム出身、メットライフにジョインする直前には、アジア最大の通信企業シンガポールテレコムにて、デジタルマーケティング企業Amobeeの買収を指揮しました。また、マイクロソフトに買収された検索エンジン企業FASTでCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務めるなど、テクノロジーや新規事業の領域での豊富な経験を持っています。
LumenLabには、Zaman氏の他にもユニークなメンバーが多数所属しています。LumenLabに所属しているビジネスインキュベーターの多くは、保険以外の業界出身であり、このことについてZaman氏は「保険以外の業界からきているスタッフが多いことで、業界に対するバイアスが少なく、真の意味で”Out of the Box”な思考をすることができる。」と述べています。
世界中のスタートアップとのコラボを生みだす「Collab」
LumenLabは、世界中からスタートアップを募集して行われるビジネスマッチングプログラム「Collab」を運営しています。
Collabはスタートアップ募集、審査、採択チームの発表、協業期間、デモデイから構成される、いわゆるアクセーラレーションプログラムですが、その特徴としてテーマの具体性の高さが挙げられます。
例えば、商品開発の領域では「ビッグデータを利用した保険商品の価格設定を可能にするシステムやテクノロジー」など実務用途が想像できるテーマ設定がされています。 その他にもカスタマーリレーションやセールス、バックオフィス業務改善の領域で、同様に具体的なテーマでのスタートアップ募集が行われています。
一般に募集テーマが具体的すぎると、対象となるスタートアップが限定されてしまうリスクはありますが、メットライフ側にとっては、マッチング後のコラボレーションに結びつけやすくなるメリットがあるといえるでしょう。
LumenLab内での審査により、応募スタートアップからファイナリスト6社が採択され、採択されたスタートアップはメンターとなるLumenLab社員らとチームを組み、2ヶ月のプログラムに進みます。
プログラムの最終日にはデモデイが行われ、受賞したスタートアップは、メットライフから1,000万円の資金と、共同で実証実験を行う権利が得られます。 Collabは、これまでに世界各国で3回開催され、第1回はシンガポール、第2回は日本、第3回はロンドンでデモデイが開催されました。いずれの回も世界中から100社を超える応募を集めており、注目度が高いプログラムであることが伺えます。
Collabプロジェクト事例
Flamingo AI (Collab1.0 Winner オーストラリア発)
企業向けに会話AIのプラットフォームを提供。 保険業界の商品、プロセス、リスク、規制やカスタマージャーニーについて機械学習したAIを構築。問い合わせから契約、支払いにいたる保険のセールスプロセスを自動化することを狙いとした
Uniphore (Collab1.0 Winner インド発)
顧客との会話音声を分析するソフトウェアを提供。音声認識と音声に対するバイオメトリクス技術を有しており、主にインドでモバイルバンキングサービスを開発
Moneytree (Colllab2.0 Winner 日本発)
顧客の資産管理ソリューション。銀行口座やクレジットカード、ポイントサービスの明細をまとめて表示する個人資産管理サービスを提供。企業向けには経費精算や法人口座に対応するMoneytree Workや各種銀行口座やクレジットカード、ポイントカードから取得したデータを集約するAPI「MT LINK」を提供。 「MT LINK」は会計・銀行業界に加え、保険業界ともサービス連携や協業が進んでいる
Lucep (Collab3.0 Winner シンガポール発)
カスタマーエンゲージメントソリューションを提供。Webページに訪問したユーザーが電話番号を入力するだけで、デモなどのリクエストができるサービス「Click To Call」や、オムニチャネルのカスタマーエンゲージメント管理ツール「OmniPath」を開発。主に金融業界への導入が進んでいる
イノベーション組織マッピング
LumenLabは、メットライフの本業である保険業界の改善、ディスラプトを目指しビジネスマッチンブプログラム「collab」を運営しています。 テーマは既存事業ドメインにかなり近く、かつ具体的に設定されています。また、課題解決のために世界中からスタートアップを募集しており、オープンな組織であるといえます。
まとめ
いかがでしたか、今回は生命保険会社メットライフのイノベーション組織「LumenLab」と、特に同組織が運営している「Collab」について紹介しました。
LumenLabは、保険業界以外の人材を多数採用した組織を構築し、レガシーな保険業界のディスラプトを目指しています。
このようにバックグラウンドの異なる人材を取り入れ自らゲームチェンジャーとなる姿勢は参考になるのではないでしょうか。
また、スタートアップとの協業を目指すプログラム「Collab」には先進的なソリューションを持つ企業が世界中から数多く参加しており、次なるイノベーションの種を見出しているといえるでしょう。
募集時のテーマをかなり具体的に設定することで、その後のコラボレーションにつながりやすい設計にしている点も特筆すべき点と言えます。