P&Gのスタートアップスタジオ「P&G Ventures」
今回は、世界最大の消費財メーカーであり、マーケティングカンパニーとしても名高いP&Gが、新規事業や新ブランドの創出を目的に運営するスタートアップスタジオ*「P&G Ventures」についてご紹介します。
スタートアップスタジオ*：同時多発的に複数の企業を立ち上げるための組織。事業開発、エンジニア、デザイナー、マーケター、ファイナンス、法務などのスペシャリストを抱える
P&G Venturesは、社内外から募集したビジネスアイディアを事業化するためのスタートアップスタジオで、P&G本体のアセットも活用しながら様々な形でインキュベーションを行なっています。P&Gがこれまでサービスを提供していなかった新領域におけるブランドやプロダクトの創出を目的としており、同組織からは、資金提供やパートナーシップ締結のサポートだけでなく、P&Gがこれまで数多くのブランドを創出してきた源泉である消費者インサイトの提供や、同社最大の強みであるマーケティング面の支援も行います。
これまでにも、米国の大規模展示会CESにおいて、来訪者の注目が集まるP&Gの展示エリアでPoCを実施して消費者インサイトを得るなど、P&Gの企業としてのブランド力を活用したサポートの実績があります。
さらに、P&G Venturesは新規事業創出のキーとなるリーン開発に力を入れています。社内に同組織と連携するスタートアップビジネスの担当部隊が存在しており、例えば、P&G内の既存ブランドとは別で、シードビジネス専門のカスタマーサポートを担うなどの施策をとっています。プロダクトデザインやクリエイティブワークもほとんどが社内で行われるため、スタートアップ企業にも劣らないスピード感ある開発が可能となっています。
テーマ領域とオープン化された窓口
P&G Venturesでは、社外からのアイディアも受け付けており、Webサイトから誰でも常時応募できるようになっています。また、企業規模や法人・個人に関係なく応募することが可能です。
現在は、下記テーマ領域でアイディアが募集されています。（2019年6月時点）
・Managing Pain Without Side Effect：慢性疼痛を抱えるユーザー向けソリューション
・Enhancing Male Wellness：男性向けウェルネスケアソリューション
・Maximizing Mental And Physical Performance：ミレニアル世代向けの健康増進ソリューション
・Caregiving For The Aging；高齢者向けセルフケアソリューション
・Maintaining A NON-TOXIC Home：有害化学物質フリーのホームケアソリューション
・Alleviating Symptoms Of Menopause：更年期障害改善ソリューション
・Treating Chronic Skin Conditions & Symptoms：スキンケアソリューション
・Improving Sleep Through Environment：睡眠改善ソリューション
プロジェクト事例
Opté Precision Skincare System
皮膚のそばかすなどの色素沈着を、スキャン・検知して修復できるデバイス。肌に青いLED光線を照射しながら150枚/秒の画像を撮影するカメラで肌の表面を撮影すると、精密な色解析アルゴリズムでシミを検出し、シミだけを狙って微粒子の専用コンシーラーを120のノズルから噴射する。同デバイスは、P&G社内で10年間に及ぶ開発と40件を超える特許取得が行われており、CES2019のP&Gブースに出展されたことで話題に。出展時点ではテストマーケティング段階で、2019〜2020年の製品化を目指すと発表。P&G Venturesから産まれた最初のブランド。
ZEVO
昆虫の神経系受容体のみを標的として、人体に影響なく迅速に昆虫を駆除する技術をベースに開発された殺虫剤。 昆虫制御技術ソリューション開発を得意とするライフサイエンステクノロジー企業Envance Technologiesと、共同開発およびライセンス契約を締結し、ブランド化され一般発売されている。
イノベーション組織研究マッピング
P&G Venturesは、これまでサービスを提供していなかった新領域でのブランド・プロダクトの創出が目的としているため、比較的既存ドメインとは遠いといえます。 また、インキュベーションはP&Gの既存アセットを多分に活用する内容となっていますが、ビジネスアイディア自体は、テーマ領域をもとに社内外問わずオープンに募集されている点で、非常にオープンな組織といえるでしょう。
まとめ
いかがでしたか、今回はP&Gのイノベーション組織P&G Venturesを紹介しました。
大企業内のスタートアップスタジオとして、スピード感ある開発を目指す一方、これまでP&Gが培ってきたブランド力やマーケティング力を活用した事業創出のサポートを行っている点は参考になるのではないでしょうか。
