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新規事業が進まない理由——停滞を生む、経営と現場の6つの構造ギャップ

コラム

新規事業が進まない理由——停滞を生む、経営と現場の6つの構造ギャップ

新規事業が進まない・停滞する原因は、担当者の能力や意欲ではなく組織構造にある。経営・新規事業開発部・起案者の間に生じる6つの認識ギャップと、その埋め方を整理した。

新規事業の推進体制を整え、優秀な人材を配置しても、なかなか事業化に至らない。こうした状況は、特定の企業に限った話ではありません。

私たちが多くの企業の新規事業支援に携わる中で見えてきたのは、個人の能力や意欲の問題ではなく、組織の各層の間に存在する「構造的な認識のギャップ」が推進力を削いでいるという事実です。

本稿では、そのギャップがどこに・誰と誰の間に生まれ、何を引き起こすのかを整理します。

新規事業に関わる人たち——それぞれの立場

新規事業の停滞を論じる前に、まず「誰が関わっているのか」を整理しておきます。多くの企業では、新規事業に関わる人々は概ね以下のような層に分かれています。

重要なのは、「経営 vs 現場」という二項対立では実態を捉えきれないという点です。ギャップは、経営者と担当役員の間にも、新規事業開発部と起案者の間にも、同じ起案者でもフェーズの違いによっても、それぞれ異なる形で生じます。

断絶が生まれる6つの領域

こうした多層構造を踏まえた上で、ギャップが生まれやすい領域を6つに整理します。

1. 戦略の具体度

経営会議で「注力領域はヘルスケア」と決まった。しかし新規事業開発部の部長にとっては「医療機器なのか、ウェルネスなのか、データビジネスなのか」が分からなければ、公募テーマの設計すらできません。

経営者が示す方針の粒度と、新規事業開発部が動くために必要な具体性には、構造的な差があります。問題は、抽象的な方針を行動計画に翻訳するプロセスが組織として設計されていないことにあります。

2. 資源配分の本気度

新規事業開発部が設置された。しかし部長に聞くと「専任は自分含め2名」。公募で採択された起案者は、現業の上長から「通常業務に穴を開けるな」と釘を刺されている。

経営から見れば「予算も人も付けた」。しかし起案者が新規事業に集中できる時間は週の2割程度、ということが起きています。制度上の配分と実質的な稼働可能時間の差が、ギャップの正体です。

3. 判断基準・撤退ルール

担当役員から「いつ黒字化するの?」と問われる。部長は「続けるか止めるかの基準がそもそもない」と感じている。起案者は「いつ打ち切られるか分からない」不安を抱えている。

既存事業の尺度(売上・利益率)を新規事業に当てはめると、ほぼすべてが「不合格」になります。基準がなければ、部長は起案者を守ることも撤退を判断することもできません。

4. 事業化への道筋

PoCで良い結果が出た。しかし「この先どうするか」を決める場も、受け入れ先の事業部との合意もない。ピッチ採択後に異動した起案者が、次の一手が分からないままPoCを延長し続けている。

出口の不在は、特に本格的にコミットした起案者にとってキャリアリスクに直結します。この見通しの不在が、いわゆる「PoCの死の谷」を生みます。

5. 外部連携の姿勢

「スタートアップとの面談を50件実施しました」——しかし共同開発やPoCに至ったのは1〜2件。起案者からは「自分のテーマと関係ない面談に時間を取られる」という声が上がっている。

方針として「外部連携を推進する」と定めても、成果に結びつける実行設計がなければ件数だけが積み上がります。

6. データ・AI活用

全社方針として「AI活用推進」が掲げられている。しかし新規事業開発部の部長は「何をどう変えればいいか分からない」。起案者はChatGPTで下書きを作る程度にとどまっている。

方針としての「AI活用」と、実務としての「事業開発プロセスへのAI実装」は、かなり異なるものです。

※ この領域について、事業開発プロセスへのAIの具体的な組み込み方をVol.2 AIを事業開発プロセスにどう実装するかで整理しています。

ギャップが蓄積すると何が起きるか

上記6つの領域に生じたギャップは、放置されると組織全体の推進力を静かに蝕んでいきます。そして、その影響は層によって現れ方が異なります。

方針空転。経営者は戦略を立て、担当役員は制度を整え、予算を付けた。しかし新規事業開発部の動きが鈍い。経営からは「なぜ動かないのか」と見える。新規事業開発部の部長からは「動ける状態になっていない」と見える。双方にとって不満が蓄積します。

PoC渋滞。新規事業開発部はプログラムを運営し、起案者はPoCを立ち上げる。しかし事業化に至る案件がない。判断基準と出口設計の不在がその原因であることが多いのですが、経営から見れば「PoCを回しているのに成果が出ない」、起案者から見れば「成果を出しても先に進めない」という形で、異なる不満として表面化します。

起案者の離脱。特にピッチ採択後に異動した起案者にとって、構造的なギャップの中で成果を求められ続ける状態は深刻です。出口が見えない、判断基準がない、リソースが足りない——これらが重なると、組織が最も期待をかけた人材が新規事業から離れていく結果を招きます。「エース級を配置したのに辞めてしまった」という事象の背景に、こうした構造的要因が隠れていることがあります。

これらはいずれも、個人の力では解消しにくい問題です。構造的な要因から生まれている以上、構造に手を入れない限り繰り返されます。

しかし、逆に言えば、構造を変えれば状況は動き始めます。そして構造的な課題は、経営者だけが解決するものではありません。

ギャップが埋まった組織の姿と、そこへの動き出し方

すべての企業が先述の状態にあるわけではありません。ギャップを意識的に埋めている組織では、同じ6つの領域が全く異なる形で機能しています。そして、どの立場にいても、ギャップの所在を把握していれば、自分の影響力の範囲で改善を動かすことができます。

戦略が翻訳されている。担当役員が経営方針を「どの市場の、どの課題を、いつまでに検証するか」という問いに変換し、新規事業開発部がその問いをもとにプログラムを設計できている。起案者は、何に取り組むべきかが明確な状態でスタートを切れる。

→ 経営者・担当役員は、方針が新規事業開発部に届く粒度になっているかを確認するだけで、下流のギャップの多くが動き始めます。

資源が実質的に確保されている。制度上の配分だけでなく、起案者が集中できる時間と権限が現業の上長との間で合意されている。部長は起案者の稼働状況を把握し、必要に応じて担当役員にエスカレーションできる体制がある。

→ 部長は、制度上の配分と実質稼働のギャップを数字で可視化し、担当役員に提示することで、資源の再配分を引き出せます。

判断基準が事前に合意されている。「このKPIを達成したら次のステージへ、未達ならピボットか撤退」というルールが、経営・新規事業開発部・起案者の間で共有されている。起案者は不安から解放され、検証そのものに集中できる。

→ 部員は、起案者が直面している「基準の不在」を具体的なエピソードとして部長に伝えることで、基準策定の議論を起動できます。

事業化の道筋が設計されている。PoCの先にある受け皿——事業部への移管、子会社化、JV設立——の選択肢と条件が、PoC開始時点で議論されている。起案者にとって「成功した後のキャリアパス」が見える。

→ 起案者自身も、「出口が見えない」という声を構造の問題として言語化し、新規事業開発部や担当役員に建設的なフィードバックとして伝えることができます。

外部連携が成果に結びついている。面談件数ではなく、共同開発やPoCに至った案件の質で評価されている。起案者のテーマとの適合性を事前に判断した上でマッチングが行われている。

データ・AIがプロセスに埋め込まれている。方針としての「AI活用」ではなく、市場探索や仮説検証といった具体的なプロセスにAIが組み込まれ、実務の中で活用できる状態になっている。

いずれの立場でも、出発点は同じです。自社の構造を客観的に把握し、どこに最も大きなギャップがあるかを特定すること。それが、自分の立場からの最初の一歩の精度を上げます。

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