2026.07.29
イベント
【開催報告】新規事業のボトルネックはどこにあるのか
2026年6月30日、アーキタイプ株式会社は創業20周年を記念したトークイベント「新規事業のボトルネックはどこにあるのか」を、CIC Tokyo(虎ノ門ヒルズビジネスタワー)およびオンライン配信のハイブリッド形式で開催しました。ご来場・ご視聴いただいた皆様に、あらためて御礼申し上げます。
本イベントは、大企業の新規事業創出を20年にわたり支援してきた知見をもとに、「経営と現場の構造的なズレ」と「その解き方」を、①業界横断477社の調査データ、②海外先進企業のケーススタディ、③国内大企業の実装現場の証言という3つの層を重ねて解き明かすことを目的に企画しました。
パート1|ファクトで見る「新規事業開発の現在」
代表取締役・菅野龍彦より、2つの調査結果をご紹介しました。
① 業界横断477社の実態調査(経営と現場の6軸ギャップ)
2026年4月に実施した調査では、新規事業を推進する基盤を6軸(戦略の具体度/資源配分の本気度/継続・撤退ルール/事業化への道筋/外部活用/データ・AI活用)で評価しました。主な発見は次のとおりです。
推進基盤のスコアで、先進企業はわずか約12%、消極帯は約3分の1(33%)でした。会社規模と相関する傾向も見られました。
認識のギャップが最も大きかったのは、意外にも「経営トップと新規事業担当役員」の間でした。
高いレベルで経営と現場が整合している企業は約28%にとどまり、残る多くは「基盤が未整備」「現場が先行して方針が追いつかない」といった整合不全の状態にありました。
データ・AI活用の軸だけは、経営の号令よりも現場の取り組みが先行しているという特徴が見られました。

② 海外イノベーション先進企業の「仕組み」
書籍『イノベーション メカニズム 海外大企業7社から学ぶ』(2026年1月 KDP出版)で分析した海外先進企業の事例から、事業開発を現場に実装する共通の設計軸として「役割・評価・組織」の3つをご紹介しました。BMWのベンチャークライアントモデル、Boschの忍耐強い資本、Leaps by Bayerの超長期テーマ設定、Samsung C-Labの復職保証、DBSのプル型連携など、いずれも一度作って終わりにするのではなく、必要とされる能力の変化に合わせて仕組みそのものを更新し続けている点が共通していました。

パート1の結論として、新規事業の本当の目的は「変化に合わせて自社の能力を組み替え続ける力(ダイナミック・ケイパビリティ)の獲得」にあり、それを可能にするのが「役割・組織・評価を仕組みとして設計し、更新し続ける力」である、という仮説を提示しました。
パート2|実務家によるパネルディスカッション
大企業の新規事業制度を最前線で担ってきた実務家の皆様をゲストにお迎えし、菅野を交えた4名で、パート1で示したデータを実装現場の視点から検証しました。制度を作り、動かしてきた当事者だからこそ語れる実装の現場を、5つの問いに沿って伺いました。
以下の4名にご登壇いただきました。
斉藤 一実 氏(株式会社EntreBiz CEO/元・富士通 FIC 創設者・元責任者)
渋谷 昭範 氏(Akish Consulting合同会社/元・リクルート 新規事業提案制度「Ring」責任者)
イノベーション鈴木 氏(積水化学工業株式会社 新事業開発部 イノベーション推進グループ長)
菅野 龍彦(アーキタイプ株式会社 代表取締役)

経営から、具体的な方針や指示はあったのか
パート1では、6軸の多くで経営の号令が現場の実態を上回るという結果が示されていました。しかし現場の実感は、必ずしもそうではありません。斉藤氏(富士通 FIC)とイノベーション鈴木氏(積水化学 C.O.B.U.)は、いずれも経営からの明確な指示ではなく、現場発(ボトムアップ)で制度を立ち上げていました。両氏とも、各部門の役員へのヒアリングを重ね、会社が何を課題と考えているかを読み取って制度に織り込んだと振り返ります。斉藤氏は、制度を回す担当者にとってのお客さまは役員であり、会社の弱みに対してこのプログラムがどう効くのかを考え抜くことが出発点になると語りました。
一方、渋谷氏が担当したリクルートの「Ring」は45年の歴史を持ち、時々でその役割と形を変えてきた制度です。過去には、トップダウンでテーマが設定された時代もありました。渋谷氏が担当した2018年当時は会社の再統合期にあたり、部署を越えた一体感の醸成や相互の起案が狙いで、テーマを設定せずボトムアップで自由に案を集めたといいます。
菅野も、日本の伝統的な大企業ではトップダウンで長期の方針が示されることはむしろ少なく、承認プロセスでの対話を通じて徐々に具体化していく例が多いと補足しました。
経営の中の「認識のズレ」に、現場はどう働きかけるか
役員ごとに見ている領域や時間軸は異なり、経営の中でも認識のズレは避けられません。イノベーション鈴木氏は、現場からボトムアップで提案を上げること自体がズレを合わせる装置になり、何も上げなければズレはそのまま残ると述べ、意見の異なる役員に丁寧に説明し、同じ場に集めて調整を重ねる地道な積み上げの大切さを強調しました。渋谷氏は、新規事業提案制度が果たしてきた役割として「次の経営者を育てる」側面を挙げ、新規事業を評価し選抜する経験そのものが人材育成につながると指摘しました。これに対して菅野は、それは既存事業と新規事業を同時に扱う「両利きの経営」を担える役員を育てることにもつながると補足しました。
挑戦者を、短期ROIの圧力からどう守るか
海外先進企業に共通していた「評価の仕組み」を、日本の現場ではどう実現するのか。斉藤氏は、新規事業が黒字化するまでには長い年月を要するという事実を示しつつ、事業部の決算に早めに着地させることで短期評価の矢面から外す工夫を紹介しました。渋谷氏は、プロジェクト単位では短期のROIを問わない、という考え方を示しました。ニーズ検証、実現性、PMF(プロダクトマーケットフィット)というフェーズで管理し、予算はあらかじめ固定したうえで、各フェーズの検証論点だけを評価します。そして、確度の高い数値予測ができ、大きく投資すべきスケール化のタイミングに至って初めてROIを評価する、というものです。イノベーション鈴木氏は、制度の目的を明確にしたうえで、ステージごとに通過の基準(ゲート)を設け、役員の了承を得ながら進める運営の実際を語りました。共通していたのは、まだ材料を集めている段階でROIを問うのは早すぎるという認識でした。
応募は集まるが、事業化の歩留まりにどう向き合うか
渋谷氏は、事業化の段階は案件数が少なく、単年では歩留まりを語れないとしたうえで、アイデア募集の段階では、歩留まり率よりも応募の量の最大化を目指すと述べました。そのために、一度挑戦した人にもう一度挑戦してもらう働きかけ(顧客管理=CRMの発想を社内に応用する取り組み)が有効だといいます。案件の成否は運にも左右されますが、人は経験で伸びていき、量がそろえばポートフォリオを組めるという考え方です。イノベーション鈴木氏は、社内と社外で伴走者を立て複数視点で支援する事業化体制構築や、メーカーの現場で使いやすい起案支援の工夫を重ねている最中だと共有しました。あわせて、そもそも「質」とは何かも論点になりました。既存事業に近い提案ほど評価者にとって分かりやすい一方で、それを質が高いと捉えてよいのか。質の定義は、社内リソースをどれだけ活かせるか、会社の方向性と合っているかに立ち返る必要がある、という議論が交わされました。
制度の、何を変え、何を変えなかったか
最後に、各氏が制度運営で「変えたこと」と「変えなかったこと」を語りました。イノベーション鈴木氏は、ポートフォリオを組めるように中間ステージの通過数を増やした一方、現業部門への負担が大きい人材異動の規模は据え置いたと述べました。渋谷氏は、毎月起案できる形式を年1回の大型プロジェクトに戻すことで、起案数ではなく起案者数を増やし、教育プログラムを大幅に拡充しました。一方で、管理職によるフィードバックだけは、工数がかかっても協力してもらう形を守り続けたと振り返りました。斉藤氏は、制度の運営体制を経営層の近くへ引き上げていった一方、審査で最も重視する「挑戦者本人の意志(Will)」は最後まで変えなかったと語りました。
いずれの制度にも共通していたのは、環境や求められる能力の変化に合わせて、仕組みそのものを運営しながら変え続けている点でした。これは、パート1で紹介した海外先進企業の姿とも重なります。
パート3|セルフ診断と質疑応答
パート1でご紹介した6軸を、来場者ご自身の会社に当てはめて確認いただけるセルフ診断シートもご用意しました。質疑応答では、事務局担当者のモチベーションのあり方や、応募を増やすための具体的な施策など、実務に踏み込んだ活発なやりとりが交わされました。
結び
本イベントを通じてお伝えしたかったのは、新規事業のボトルネックは、個人の能力や気合ではなく、「役割・組織・評価」という仕組みの設計と、その仕組みを更新し続ける力にある、ということです。

新規事業の目的は、変化に合わせて自社を組み替え続ける力の獲得にある
立場ごとに見えている現実の違いは、文化や根性ではなく仕組みで埋める
仕組みは作って終わりではなく、環境の変化に応じて更新し続ける
アーキタイプは、これからも「未来の原型を築く」というミッションのもと、皆様の事業開発をご支援してまいります。自社の現在地を把握したい方は、業界477社の平均と比較できる無料の6軸診断ツールをぜひお試しください。事業開発の仕組みづくりに関するご相談も、お気軽にお問い合わせください。
改めまして、ご登壇いただいた斉藤様、渋谷様、鈴木様、そしてご参加いただいた皆様に、心より御礼申し上げます。

※ 本記事の調査数値は、2026年4月に実施した業界横断調査(477社)に基づきます。
無料6軸診断ツール:https://diagnosis.archetype.co.jp
ナレッジ「イノベーション組織」(書籍『イノベーション メカニズム』の継続更新記事):https://archetype.co.jp/knowledge/tags/organization
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