業界別レポート
メディア・エンタメ業界の新規事業はどこに勝機があるか——価値が集中する3つの場所
アンバンドルから再結合へ。利益はどこに集まっているか(連載・全7回/第1回)
発行: アーキタイプ株式会社 / 2026年6月
シリーズ: メディア・エンタメ 価値を握る場所の経済学(第1回/全7回)
メディア・エンタメ業界で、いま静かに「再結合」が進んでいます。ソニーグループは2025年1月7日にKADOKAWAの第三者割当増資を約500億円・約10%で引き受け、同社の筆頭株主になりました。講談社は2025年11月にグローバル映像化スタジオ Kodansha Studios を設立し、TBSホールディングスはU-NEXT HDを議決権20.0%の持分法適用関連会社に組み入れています。いずれも、過去1年に集中して起きた動きです。
これらに共通するのは、「いったんバラバラに解かれた業界の構成要素を、新しい組み合わせで結び直している」という構造です。CD・書籍・ビデオがデジタル流通に置き換わり、コンテンツが特定の放送局や出版社の枠を離れてグローバルに流れるようになった——その「解体(アンバンドル)」の局面を経て、業界はいま、要素を組み替え直す段階に入っています。
そこで問われるのは「メディア事業をやるべきか」ではなく、「アンバンドルされた業界で、価値を握る場所はどこか」です。本記事は、この問いに答えるために実施した調査レポートの全体像を整理したサマリーです。
デジタル化は、3つの局面に分けて捉えられます
過去30年のデジタル化は、技術側から見れば一本の流れですが、産業構造の側から見ると性質の異なる3つの局面に分かれます。
第1局面(1990年代後半〜2010年代前半)は「流通のデジタル化」です。レコード店・書店チェーン・ビデオレンタル店・新聞販売店といった、商品を物理的に消費者へ届けていた中間層が、最初の構造変化に直面しました。
第2局面(2010年代後半〜2020年代前半)は「IP(コンテンツ)の独立流通」です。Netflix・Spotify・Disney+・YouTubeのような地理に依存しないグローバル配信プラットフォームが優勢になり、コンテンツが国や放送局の枠を外れて流通するようになりました。日本発アニメの海外市場は2020年の1兆2,394億円から2024年に2兆1,702億円へと4年で1.75倍に拡大し、海外比率は51.2%から56.5%へと逆転しています(日本動画協会「アニメ産業レポート2025」)。
そして第3局面(2025年〜現在)が「再結合(リバンドル)」です。冒頭に挙げたソニー・KADOKAWA、講談社、TBS・U-NEXTの動きは、いずれもこの局面のシグナルです。本調査がフォーカスしているのは、この第3局面の経済構造のうえで、自社のアセットがどこに位置取りすべきかという問いです。
価値は、3つの場所に集中しています

過去6年の財務データを横断して観察すると、安定した利益が生まれている場所は業界全体に薄く広がっているのではなく、3つの集中点に偏っていることが分かります。
集中点A:IPの源流を握るプレイヤー
コンテンツを自社で創出し、複数チャネルへの展開権を保持する企業は、構造的に高い利益率を維持しています。
任天堂:FY2024(2024年3月期)連結売上1兆6,718億円・営業利益率31.6%。うち「モバイル・IP関連収入等」だけで927億円(前年510億円から+81.6%)と、ハードウェアとは独立したIP単独の成長軌道を示しています。
東映アニメーション:営業利益率26.5%、ANYCOLOR(FY2024・4月期)38.6%。バンダイナムコの「ガンダムシリーズ」は単独売上1,457億円(5年前781億円から+86%)。
集中点B:独占的なグローバル配信プラットフォーム
世界規模の独占的プラットフォームを築けた一握りの企業は、規模の経済とデータ蓄積で収益優位を確立しています。
Netflix:FY2024(2024年12月期)売上$39.0B・営業利益率26.71%・有料会員年平均277.73M(10-K/SEC EDGAR)。
Spotify:FY2024 で創業以来初の通期営業黒字(営業利益率約11.4%)に到達。
集中点C:アンバンドル不能領域——物理空間とライブ体験
定義上デジタルに置き換えられない領域です。
オリエンタルランド:FY2024 連結売上6,184.93億円・自己資本利益率13.5%。
東宝の映画事業は営業利益率23.2%(FY2024)、ライブ・エンタテインメント市場は2024年に7,605億円・前年比+10.9%(ぴあ総研)。
これら3点に共通するのは、「上流を握る」「独占的な配信路を持つ」「物理・ライブに固定されている」という、いずれも代替されにくい構造です。逆に言えば、この3点のどこにも足場がない事業は、構造的に薄利化の圧力にさらされます。
同じ「IP源流型」でも、二極化が進んでいます
集中点Aのなかをさらに見ると、海外展開力で深い二極化が走っています。業界統計から取れる海外比率を並べると、ゲームは約88%(海外家庭用ソフト1兆6,273億円に対し国内1,675億円)、アニメ(映像)は56.5%に達している一方、実写映画の海外輸出は1,080億円で、国内市場2,069億円の半分程度にとどまります。
この差は戦略選択に直結します。すでに海外比率80%台のゲームIPホルダーは、次の成長を「IPの世界観の縦展開」(ライブ・映像・グッズ・体験への拡張)に求めます。一方、海外比率が30〜40%台の実写系企業は、まず「海外配信プラットフォームへのライセンス販路を開く」という基礎的な段階を踏むことになります。同じ「IPを持っている」でも、置かれた局面が異なるのです。
いま各社は、集中点を取り直し始めています
第3局面の現在、各プレイヤーはこの3つの集中点のどこにポジションを取り直すかを急速に決め始めています。ソニーがKADOKAWAの筆頭株主になった件、講談社のKodansha Studios設立、TBS HDによるU-NEXTの持分法適用関連会社化(議決権20.0%)は、すべてこの再ポジショニングの一部です。
ここで自社に引きつけて考えると、最初の問いは次の3つに整理できます。自社のメディア・エンタメ事業は、A・B・Cのどの集中点に「いま」立っているか。どこにも立てていないと感じるなら、自社のどのアセットを使えばいずれかに足場を作れるか。そして、立っていない場所への進出を急ぐべきか、立っている場所を深掘りすべきか——その判断軸は何か。
本連載のロードマップ
本記事は、メディア・エンタメ業界レポート(Vol.3)の全体像を整理したサマリーです。次回以降、それぞれのテーマを深掘りしていきます。
詳細レポート(全51ページ)では、3つの集中点の財務データ、撤退・縮小16事例の構造分析、先駆6パターンの一次ソース、規模を取りにくいローカルメディア向けの別解、そして30分で自社の現在地を判定するリトマス試験紙まで収録しています。
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