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地方紙のデジタル購読戦略——Schibsted/Aftenpostenが10年で営業利益率10.4%に到達した方法 

業界別レポート

地方紙のデジタル購読戦略——Schibsted/Aftenpostenが10年で営業利益率10.4%に到達した方法 

地方紙が「購読」に賭けた10年と、OIM 10.4%の到達点

発行: アーキタイプ株式会社 / 2026年6月
シリーズ: 規模を取りにくいローカルメディアの海外事例(第4回/全6回)

メディアの新規事業を考えるとき、つい「画期的なブレイクスルー」「劇的な転換」を探したくなります。しかし、実際に過去 10 年で安定的な収益を確保した地方紙の事例を見ると、共通しているのは正反対の特徴です。地味な置き換えを、長期にわたって、丁寧に積み重ねたという構造です。

ノルウェーの Schibsted(シブステッド・オスロ証券取引所上場・銘柄コード SCHB)グループ傘下の Aftenposten(アフテンポステン・ノルウェー最大級の日刊紙)は、その代表例にあたります。

2024 年・Aftenposten の財務データ

まず、最新の数字から見ていきます。Aftenposten の 2024 年実績は以下の通りです(Schibsted 公式プレスリリース):

  • 売上:NOK 1,346.5M(前年比 ▲2.5%)

  • 営業利益:NOK 140.1M(前年比 +14.4%

  • OIM(営業利益率):10.4%

売上は微減しているにもかかわらず、営業利益は前年比 +14.4% で増益、営業利益率は 10.4% に到達。地方紙としては、極めて安定した収益体質です。

日本の地方紙の経営状況と並べると、この数字の意味がはっきりします。日本では新聞総発行部数が前年比 ▲6.9%、新聞広告費が ▲6.2% という減少局面のなか、Aftenposten は売上微減を許容しつつ営業利益を伸ばすという、別の軌道に乗っています。

2018 年頃からの「丁寧な置き換え」

Schibsted/Aftenpostenの現在の安定は、突然到達したものではありません。2018 年頃から約 10 年かけて、計画的に進めた「印刷からデジタルサブスクへの置き換え」の積み重ねの結果です。

具体的に何を行ったかというと:

1. ホームページの有料壁の段階的拡大 

Aftenpostenのホームページの記事のうち、有料壁の内側に配置するコンテンツの比率を、10% → 30% へと段階的に拡大しました。一気に「全記事有料」にするのではなく、無料記事を残しながら、有料コンテンツの比率を毎年少しずつ引き上げていく、というアプローチです。

2. 系列紙間の購読データ共有・価格テスト集約 

SchibstedはAftenposten以外にも複数の地方紙を傘下に持っています。これらの系列紙間で、購読者の行動データを共有し、価格テスト(月額の設定・割引キャンペーンの設計)を集約することで、グループ全体で効率を上げる仕組みを作りました。

3. 印刷コストの計画的削減 

印刷部数の減少に合わせて、印刷工場・配送ネットワークのコストを段階的に圧縮しました。2024 年実績では、印刷コストが前年比 ▲4.1% の削減を達成しています。

4. デジタルサブスクの増収を維持 

同期間に、デジタルサブスクの収入は前年比 +2.6% で伸ばしています。

つまり、Aftenpostenの 2024年実績は、「デジタルサブスク +2.6% + 印刷コスト ▲4.1% = 営業利益 +14.4%」という、地味だが構造的に意味のある数式の上に成立しています。

Aftenposten のサブスクは、デジタル収益の約 60%

もう一つの重要な指標があります。Aftenposten の 総デジタル収益のうち、サブスクが占める割合は約 60% です(Schibsted 公式 PR)。

これは、地方紙のビジネスモデルが「広告依存」から「読者課金依存」に構造転換していることを意味します。広告は景気変動・大手プラットフォームのアルゴリズム変更などの外部要因に晒されますが、サブスクは読者との直接の関係性に依拠するため、相対的に安定した収益源になります。

この事例が示している構造

Aftenposten の事例は、地方紙の経営にとって 3 つの重要な構造を示しています。

1. 「短期では結果が出にくい」現実を受け入れる 

2018年頃から 2024年までの約 6 〜 7 年は、「劇的な変化」が起きていない期間です。年間ベースで見れば「印刷を少し減らし、デジタルを少し増やす」だけの、地味な作業の連続です。それを10 年単位で続けたことが、現在のOIM10.4% に繋がっています。

2. グループ統合・データ共有の規模効果 

Aftenposten単独でなく、Schibstedグループ全体での購読データ共有・価格テスト集約が、効率を支えています。系列紙が独立に動くより、データを共有して動く方が、規模の経済を取れる構造です。

3. 広告から読者課金へのシフト 

地方紙の収益構造の安定性を高めるためには、広告依存度を意識的に下げ、読者課金の比率を上げる必要があります。Aftenpostenは「デジタル収益の約60%がサブスク」という水準まで到達しています。

日本での示唆

日本の地方紙が Aftenpostenから学べる点は、決して即効性のあるものではありません。むしろ、「10 年スパンで何を積み上げるか」を経営陣が腰を据えて議論できるかどうか、という問いになります。

具体的な検討項目としては:

  • 自社のホームページの有料壁比率を、いまから 5 年で 10% → 30% に段階的に引き上げる計画はあるか

  • 自社の系列紙・系列局・グループ各社の購読データを共有し、価格テストを集約する基盤を構築できるか

  • 印刷部数の減少に合わせて、印刷工場・配送ネットワークのコストを毎年 ▲4% ペースで削減する計画はあるか

  • デジタルサブスクの収入を毎年 +2.5% ペースで伸ばす施策はあるか

これらを毎年 1.5 〜 2 ポイントの改善で良いので、10 年継続するという設計が、Aftenposten型のアプローチです。

日本国内では、Vol.3 メディア・エンタメ業界レポート第3章で扱った西日本新聞 me(月額 1,100 / 3,055 円)・神戸新聞 NEXT(月額 1,650 円 + パーソナライズ)が、地域独占性 × デジタルサブスクの実証事例として始まっています。これらが Schibsted 型のアプローチで 10 年継続できるかどうかが、日本の地方紙の生存戦略を左右します。

「即効性のなさ」こそが価値

メディア業界の経営陣にとって、「10 年かけて少しずつ良くなる」というプランは、最も提案しにくい類のものです。四半期決算・年次評価の文化のなかでは、「もっと早く・もっと派手な変化」を求められやすいためです。

しかし、過去 10 年の世界の地方紙の事例を見ると、「派手な変化」を求めた企業は、Quibi や CNN+ や Disney+ Hotstar India のように、短期間で撤退や縮小に至りました。逆に「地味な置き換え」を続けた Aftenposten は、いまOIM 10.4%で安定しています。

新規事業を提案する立場の方は、「10 年継続できる地味な改善計画」が、自社で受け入れられる経営文化があるかどうかを、最初に確認しておく価値があります。

あなたの会社に置き換えると:

  • 自社の経営陣は、10 年スパンの「地味な置き換え」プランを評価し、継続承認する文化を持っていますか?

  • 自社のサブスクと広告の収益比率は、今後 10 年で「広告 70% / サブスク 30%」から「広告 40% / サブスク 60%」へと逆転させる計画を立てる余地はありますか?

Schibsted/Aftenpostenの事例は、決して輝かしいサクセスストーリーではありません。しかし、10 年継続したからこそ現在のOIM 10.4%に到達した、という地味なリアリズムが、地方メディアの新しい経営の参考点になります。

Vol.3 メディア・エンタメ業界レポート 第 4 章では、Aftenposten 型を含む 6 つの別解パターンを整理しています。第 3 章では、日本国内の類似事例として西日本新聞 me・神戸新聞 NEXT を扱っています。下記よりダウンロードの上、あわせてお読みください。

出典:Schibsted 公式プレスリリース「Schibsted’s Norwegian media houses increase digital revenues, several improve profitability」(2024 年 / 2025 年版)

ヒーロー画像: Photo by Marek Levák on Unsplash

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