エネルギー
脱炭素の「空白」は市場ではなく設計の問題である——できている側の4つの部品
日本の大手24社の開示利益に、脱炭素・再エネで厚く稼ぐセグメントはまだない。だが海外には再エネが利益の過半を占める大手が実在する。この非対称を「市場がない」ではなく「設計の問題」として読み解く4つの部品を解説する。
発行: アーキタイプ株式会社 / 2026年8月
シリーズ: エネルギー・資源 2つの時間の経営(第5回/全6回)
第1回・第3回で、日本の大手24社の開示利益には、脱炭素・再エネで厚く稼ぐセグメントがまだ存在しないことを見ました。ENEOSの再生可能エネルギーはセグメント損失、出光の電力・再エネも損失。黒字の東京電力の再エネも、その設備のほぼすべては承継した水力です。一方、前回の海外4類型では、RWEが調整後EBITDAの53.9%を、Draxが76.5%を、再エネ・バイオマスで稼いでいました。
同じ資産クラスなのに、海外には利益があり、日本の開示にはない。今回は、この非対称の正体を突き止めます。結論から言えば——空白なのは「市場」ではなく、日本の本体企業の開示利益の中だけであり、それは市場の未成熟ではなく設計の問題です。
空白の輪郭を、正確に引き直す
まず、空白の外側に利益が実在することを確認します。海外では、Enelの再エネ部門(Enel Green Power)が償却後利益ベースでも全社の29.1%を占めます。そして国内でも、再エネ専業に目を移せば利益は出ています。ウエストホールディングスは再エネセグメントだけで利益82.8億円(全社セグメント利益の75.5%・2024年8月期)、レノバの大規模太陽光は52.5億円。JERAの海外・再エネセグメントも127億円の黒字です。
つまり「脱炭素はまだ儲からない」という言い方は、事実の記述として不正確です。正確には——同じ資産クラスで、利益を出す設計と、そうでない設計がある。ならば問うべきは市場の成熟度ではなく、設計の中身です。
できている側に共通する、4つの部品
速いクロックの資産(市況で価格が決まる発電・燃料)を利益に変えている事例を、契約と資本の設計として分解すると、共通する部品が4つ見えてきます。
部品 | 何を担うか | 欠けるとどうなるか |
|---|---|---|
① 価格の固定装置 | 売電価格の振れを長期固定価格契約で止める(制度のFIT、需要家との長期契約=コーポレートPPA など) | 販売価格が市況に晒され、遅い資本で建てられない |
② 建設コストの振れの引受け先 | 資材・金利の上振れを誰が持つかを事前に決める(EPC契約の形・物価連動条項・着工判断の留保) | 売価を固定した後の建設費高騰で利益が消える |
③ 資本の回転 | 作って・動かして・安定部分を売って・次を作る | 同じ自己資本で作れる資産の量が増えない |
④ 出口の事前設計 | この資産を最後に誰が持つのかを最初に決める(持ち切る/安定後に売る/持分を残す) | ①〜③がどれも機能しない |
たとえば部品①。国内の再エネ専業が利益を出してきた時期が、FIT(固定価格買取制度・2012年7月導入)という装置の時代と重なるのは偶然ではありません。FITが2022年4月に市場連動のFIPへ移った今は、価格固定を制度がくれない分、自前の長期契約でつくる必要があります。部品③についても、JERAが米国太陽光ポートフォリオ(395MW)の50%持分を2025年8月に機関投資家へ売却したのは、国内本体で初めて明確に観測された「回転」の実例でした。そして部品④の出口も同じです。買収と売却を組み合わせて資産を入れ替えられる会社は、「この資産を最後に誰が持つのか」を最初から決めています。出口を設計していない資産は、①〜③の部品がそろっても回りません。
失敗の側も、同じ部品で読める
この4部品を当てると、近年の脱炭素関連の「失敗集」は、気の毒な市況の犠牲ではなく、欠けていた部品の一覧表として読めます。
新電力の大量退出:販売価格は固定(小売料金)なのに調達価格が市況——部品①を買い側に欠いた構造です
洋上風力第1ラウンドの開発中止:売価を入札で固定した後に資材高騰と金利上昇が来た——部品②の欠落です
水素・アンモニア実証の中止・縮小:価格を固定すべき「売り先の市場」自体がまだ存在しない領域に、建設先行で入った——部品①が制度側にもまだ無いことが顕在化した形です
バイオマス発電の減益:売価は固定でも燃料費が市況——部品②の燃料版です
失敗はどれも「脱炭素だから」起きたのではありません。速いクロックの資産を、振れの引受け設計なしで持ったから起きています。同じ設計不備は、化石燃料の資産でも同じように損を出します。
「失速論」とは、別の話をしている
念のため線を引いておきます。近ごろ、脱炭素投資の世界的な減速・現実回帰を論じる潮流があります。本記事の主張は、それとは別物です。私たちは世界の資金フローを論じているのではありません。論じているのは、日本のコア24社の開示利益に脱炭素の利益がまだ現れていないという実測と、同じ資産クラスで利益を出している設計が国内外に実在するという実測、その2つの差分です。この差分は「世界が減速したから」では説明できません。説明できるのは、設計の差だけです。
次回:だから、どちらの時間で生きるかを決める
「市場の問題」なら、企業にできることは待つことです。しかし「設計の問題」なら、変数は自社の中にあります。どの部品が欠けているかは案件ごとに特定でき、部品は調達できます——制度がくれないなら契約で、契約が高いなら回転で、回転ができないなら持たない判断で。
25年の制度改革が発電・小売を市場に移し、送配電を稼がない設計に固定した今、次に利益の地図へ描き足される土地があるとすれば、速いクロックの側にしかありません。必要なのは、クロックを宣言し、そのクロックの流儀で装置を組むこと。連載最終回は、それを実務の決定ルールと、自社を測る10問のリトマスに落とします。
本記事は連載「エネルギー・資源 2つの時間の経営」(全6回)の第5回です。
記事の元になった業界レポート「エネルギー・資源 新規事業・多角化戦略」(全47ページ)を公開しています。24社・85セグメントの利益地図、2つのクロック、海外4類型、20年の新規事業データ、脱炭素の空白まで収録しています。
連載「エネルギー・資源 2つの時間の経営」全6回
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