エネルギー
欧米エネルギー大手はどう「選び切った」か——4つの類型と、日本の「中間」
規制インフラ型・再エネIPP型・統合ユーティリティ型・資源開発型。欧米大手は自社がどのクロックで稼ぐかを選び切っている。再エネが利益の過半を占める大手も実在する構造を、Enel・RWE 等の開示と対比して解説する。
発行: アーキタイプ株式会社 / 2026年8月
シリーズ: エネルギー・資源 2つの時間の経営(第4回/全6回)
前回の利益地図で、日本の利益は「額は薄い国内本業」に6割が残り、率の厚い土地は海外市況資産と規制外の隣接に限られることを見ました。そして、その国内本業は「どちらのクロックとも言い切れない中間」でした。では、海外のエネルギー大手は、この地図をどう描いているのでしょうか。今回は、欧米6社の決算から浮かぶ4つの類型を見ます。結論を先に言えば、彼らは自社がどちらの時間で稼ぐかを選び切っており、日本だけがそのどれでもない中間に立っています。
まず、比較の作法を決める
国際比較は、指標を揃えないと簡単に嘘をつきます。欧州大手はセグメント利益をEBITDA(償却前利益)で開示し、日本は営業利益・経常利益(償却後)で開示します。償却負担の重いネットワーク事業は、EBITDAで測ると構成比が大きく見えてしまう。そこで本記事は、比較するのを各社の利益に占めるセグメント構成比のみとし、償却後利益(EBIT)の開示があるEnel・ENGIEはEBITベースで、日本側は経常利益ベース(金利込みのため送配電が低めに出る方向のバイアスがある点を明示したうえ)で並べます。絶対額の横比較はしません。
4つの類型
類型① 規制インフラで稼ぐ(Enel・ENGIE)。イタリアのEnelは、配電網事業(Enel Grids)が償却後利益(EBIT)ベースで全社の45.1%を占める最大セグメントです(FY2024)。フランスのENGIEもNetworksがEBITの23.8%。両社とも規制ネットワークを堂々と利益の柱に据え、非中核の発電・送電資産を売却して規制資産と再エネへ資本を回し続けています。規制資産を「稼ぐ土地」にできているのは、各国の制度が投資に見合う報酬を許しているからです。
類型② 国家と一体化する(EDF)。フランスのEDFは2023年に政府が100%出資して上場廃止になりました。利益の柱は原子力を含む発電・供給で、規制配電(Enedis)は15.3%——実は日本の送配電の構成比帯(4〜26%)と重なります。規制で稼ぐというより、国家が資産と時間を丸ごと引き受けた類型です。
類型③ 市況へ純化する(RWE・Drax)。ドイツのRWEは2018〜19年に送配電・小売をE.ONへ譲渡し、規制資産を持たない構成を意図的に選びました。結果、FY2024は洋上・陸上風力と太陽光で調整後EBITDAの53.9%を占めます。英国のDraxはバイオマス発電が76.5%。速いクロックに全面的に賭け、そのかわり撤退と資本回転を運営の中心に置く類型です。

規制ネットワーク事業の利益構成比——欧州の規制インフラ型と日本の中間。レポートより抜粋
類型④ どの類型も選ばず、中間に立つ(日本の本体企業)。日本の送配電の利益構成比は4〜26%(中央値約13%)——Enelの45%には遠く、RWEのゼロでもありません。上限側の中部電力(25.6%)はENGIEと同水準ですが、それを利益の柱と宣言する社はありません。海外市況資産は27.1%まで育ちましたが、利益の6割は依然として中間の国内本業に残っています。上のキーチャート(図C3)が、この「欧州は両極、日本は中間」を一枚で示しています。
4つの類型に共通するのは、稼ぐクロックを1つに寄せると決めたうえで、そのクロックの流儀——Enelなら資本の回転、RWEなら撤退の設計——を、組織の運営そのものに組み込んでいる点です。そして選び切ることには、痛みが伴います。RWEは送配電という安定収益を手放し、Enelは非中核国の資産を売り続けています。選択とは、何かを捨てることでもあるのです。日本の「中間」は、この痛みをまだ引き受けていない状態、とも読めます。
日本の「中間」は、制度の選択でもある
ここで大事な留保を一つ置きます。日本の送配電が薄いのは、経営が下手だからではありません。日本の送配電の事業報酬率は1.5%(第1規制期間)。規制資産の簿価に対して1.5%という報酬水準は、「規制資産を稼ぐ場にしない」という国の設計そのものです。Enel Gridsが45%を稼げるのは、制度が投資により高い報酬を許しているからで、企業の実力差だけではありません。
つまり日本の「中間」には二層あります。制度が規制資産の報酬を薄く定めたという国の選択と、その与件の下でどこに寄せて稼ぐかをまだ決め切れていないという企業の選択です。前者は個社には動かせません。しかし後者は動かせます。ガス2強が米国の天然ガス上流へ、INPEXがLNGへ資本を寄せたのは、与件の下での「寄せ方」の実例です。問われているのは、その寄せ方が全社戦略として宣言されているのか、それとも結果としてそうなっているだけなのか、です。
次回:海外は再エネで稼いでいるのに、日本の地図は空白
もう一つ、4類型は重要な事実を映し出します。RWEは調整後EBITDAの53.9%を、Draxは76.5%を、再エネ・バイオマスで稼いでいます。つまり海外には、再エネが利益の過半を占める大手が現に存在するのです。ところが第1回・第3回で見たとおり、日本の大手24社の開示利益に、脱炭素・再エネで厚く稼ぐセグメントはまだ現れていません。
同じ資産クラスなのに、海外には利益があり、日本の開示にはない。この非対称は何を意味するのでしょうか。次回は、脱炭素の「空白」を市場の未成熟ではなく設計の問題として読み解きます。
本記事は連載「エネルギー・資源 2つの時間の経営」(全6回)の第4回です。
記事の元になった業界レポート「エネルギー・資源 新規事業・多角化戦略」(全47ページ)を公開しています。24社・85セグメントの利益地図、2つのクロック、海外4類型、20年の新規事業データ、脱炭素の空白まで収録しています。
連載「エネルギー・資源 2つの時間の経営」全6回
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