エネルギー
利益はどこにあるのか——エネルギー24社・85セグメントの利益地図
大手24社の決算を85のセグメントに分解すると、利益の6割は額こそ大きいが利益率の薄い国内本業に残り、率が厚い土地は海外市況資産と規制外の隣接に限られる。額の地図と率の地図がまったく違う構造を、有価証券報告書から解説する。
発行: アーキタイプ株式会社 / 2026年8月
シリーズ: エネルギー・資源 2つの時間の経営(第3回/全6回)
第1回では、この業界が新規事業を活発に始めているのに、利益の地図に新しい厚い土地が増えないことを見ました。第2回では、その背景に「同じ会社に流れる2つの時間(規制資産の遅い時間と、市況資産の速い時間)」があることを確かめました。
では、その利益は実際、どこにあるのでしょうか。第3回は、電力・ガス・石油元売り・資源開発の主要24社の決算を、事業(セグメント)単位まで一社ずつ分解し、「利益の地図」を広げます。先に結論を一言でいえば——この業界の利益の6割は、いま「額は大きいが、利益率の薄い国内本業」に眠っています。 そして率の厚い土地は、まったく別の場所にありました。
連結の数字は、意外なほど地味
では、電力・ガス・石油・資源開発の大手各社は、高収益なのでしょうか。決算の一次データを見ると、答えは意外なほど地味です。
EDINET の業種分類(電気・ガス業/鉱業/石油・石炭製品)から、連結売上1,000億円以上の主要企業を抽出すると、コア24社が残ります。この24社の連結売上高の合計は58.0兆円、営業利益の合計は4兆5,445億円、売上高営業利益率は7.8%でした(FY2025・一次抽出値)。
ただし、この「7.8%」の中身は一様ではありません。連結の利益率は、最も低い出光興産の2.6%から、最も高い INPEX の56.5%まで、22倍の開きがあります。低い側に並ぶのは石油元売りと小規模ガス、高い側に並ぶのは資源開発と、料金改定を経た電力の一部です。「どの事業を持っているか」で利益率がほぼ決まっている以上、会社単位の平均を見ても実像はつかめません。地図は、セグメント単位で描き直す必要があります。
85のセグメントを、4つの「土地」に分ける
そこで、24社が開示する85のセグメントを、資産の性質で4つに分類しました(持株・持分法の調整にあたる2つを除く83が対象です)。
A 国内エネルギー本業:発電・小売・都市ガス・石油精製販売など、国内のエネルギー供給そのもの
B 規制ネットワーク:送配電・ガス導管など、収入が制度で決まる資産
C 海外・市況資産:資源開発(E&P)、海外事業、燃料トレーディング
D 規制外の隣接:不動産・情報通信・生活サービスなど、エネルギーの顧客接点や資産を転用した非エネルギー事業
黒字セグメントの利益合計は3兆9,212億円。これを100%として構成比を見ると、次のように分かれました。
分類 | 黒字利益計 | 構成比 |
|---|---|---|
A 国内エネルギー本業 | 2兆3,856億円 | 60.8% |
C 海外・市況資産 | 1兆631億円 | 27.1% |
B 規制ネットワーク | 2,493億円 | 6.4% |
D 規制外の隣接 | 2,231億円 | 5.7% |
(出所:コア24社の有価証券報告書 FY2025、EDINET。黒字85セグメントの黒字計3兆9,212億円を100%とした構成比。分類は各社の事業内容に基づく当社の解釈です)
この構成は直近2期で安定しています(前期は A 58.8%・C 27.9%・B 7.5%・D 5.7%)。利益の6割は国内エネルギー本業にある——これが「額の地図」です。

エネルギー・資源24社の利益地図——四分類別の黒字セグメント利益(構成比=面積)。レポートより抜粋
額の地図と、率の地図は、まったく違う
ところが、同じセグメントを「利益率」で並べ直すと、風景は一変します。額の大きさと、率の厚さが、見事に食い違うのです。
A は大きいが、薄い。国内本業の利益率は、石油精製で2.6〜2.8%(ENEOS の石油製品 2.8%・出光の石油 2.6%)、都市ガスで4.2〜6.0%(大阪ガス 4.2%・東京ガス 6.0%)。額が大きいのは母体の売上が巨大だからであって、1単位の資本が生む利益は薄いのです。
C は小さく見えて、厚い。INPEX の連結営業利益率は56.5%、ENEOS の E&P セグメントは23.5%(同社の石油製品 2.8% の8倍超)。東京ガスの海外は29.3%、大阪ガスの海外は47.0%——そしてこの2社の海外の中身は、脱炭素でも国内小売でもなく、いずれも米国の天然ガス上流でした。厚いのですが、指標価格や為替で大きく振れます。
B は、設計どおり薄い。送配電が各社の黒字利益に占める構成比は4〜26%(中央値約13%)、売上に対する利益率では1〜4%前後です。これは経営の失敗ではなく制度の帰結です。送配電の収入上限は「費用+事業報酬」で決まり、事業報酬は規制資産の簿価×事業報酬率1.5%と定められています(第1規制期間・2023年度〜)。東京電力パワーグリッドの託送供給等収支は、営業収益2兆450億円に対し営業利益763億円(3.7%)。国が「薄く」と定めた土地です。
D は、小さいが面白い。不動産・生活系は率が高く、京葉ガスの不動産は41.1%、東京ガスの都市開発は13.4%、大阪ガスの生活・ビジネス関連は11.7%。エネルギーの顧客接点や保有資産を、規制も市況も及ばない隣の土地に転用した事業群です。
つまり利益地図は、こう読むのが正確です。額は国内本業に残るが薄く、市況と制度に振られます。率が厚い場所は、海外の市況資産と規制外の隣接に限られます。規制ネットワークは、稼がない設計を国が選んだ土地です。
脱炭素は、まだこの地図に載っていない
もう一つ、見落とせない事実があります。85のセグメントの中に、脱炭素・再エネの新規投資で厚く稼ぐセグメントは、まだ存在しないのです。ENEOS の再生可能エネルギーはセグメント損失▲9億円(▲2.0%)、出光の電力・再生可能エネルギーは▲19億円(▲1.9%)。黒字の東京電力の再生可能エネルギー(404億円・21.4%)も、その設備のほぼすべては承継した水力発電(163か所・約980万kW)で、新設の風力・太陽光ではありません。
これは「脱炭素に事業機会がない」という意味ではありません。次回以降で見るように、海外には再エネが利益の過半を占める大手が実在し、国内にも再エネ専業で利益を出す事業者がいます。空白なのは、日本の本体企業の開示利益の中だけなのです。この非対称は、連載の後半で正面から扱います。
自社の利益は、4つの土地のどこにあるか
利益地図が教えているのは、土地には4つの種類があり、それぞれ大きさも、守られ方も、時間の流れ方も違うという事実です。「脱炭素で新しい柱を」という号令は、業界の全員を同じ方向へ向かわせます。ですが、いま利益の6割を生んでいるのは薄い国内本業であり、率が厚いのは海外市況と規制外隣接に限られ、そして脱炭素はまだ地図に載っていません。
新規事業を構想するとき、最初に確かめておきたいのは次の2点です。自社の利益の重心は4つの土地のどこにあるのか、そしてそれを「率」だけで見て規模を、あるいは「額」だけで見て厚みを、見落としていないか。この2点を押さえるだけで、次に踏み出す土地の選び方は変わってきます。
そして、率の厚い土地が「海外の市況資産」と「規制外の隣接」に偏っているという事実は、次の問いを呼びます。海外のエネルギー大手は、この地図をどう描き、どこに旗を立てているのでしょうか。次回は、欧米大手が示す4つの類型と、日本がそのどれでもない「中間」に立っている理由を見ていきます。
本記事は連載「エネルギー・資源 2つの時間の経営」(全6回)の第3回です。
記事の元になった業界レポート「エネルギー・資源 新規事業・多角化戦略」(全47ページ)を公開しています。24社・85セグメントの利益地図、2つのクロック、海外4類型、20年の新規事業データ、脱炭素の空白まで収録しています。
連載「エネルギー・資源 2つの時間の経営」全6回
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