業界別レポート
特化しても崩れる企業を分けたのは「技術力」ではなかった——半導体・電子部品56社の実数が示すもの
有価証券報告書で実数検証。利益の地図と、明暗を分ける「経営の設計」(連載・全6回/第1回)
発行: アーキタイプ株式会社 / 2026年7月
シリーズ: 半導体・電子部品 多角化の経済学(第1回/全6回)
半導体・電子部品の3社が、同じ次世代パワー半導体(SiC)に投資しました。結果は、くっきりと分かれました。ロームは連結営業利益率が前期の▲8.9%から+2.3%へと、先行赤字の「谷」を越えて回復しました。京セラも1.4%から5.7%へと越えています。一方、サンケン電気は▲3.1%から▲5.9%へと、さらに沈みました。
3社とも、技術は一流です。では、明暗を分けたものは何だったのか——。私たちはこの問いに答えるため、主要企業の有価証券報告書を営業利益率まで実数で調べ直しました。本記事は、その調査レポート(全49ページ)の全体像を整理したサマリーです。
「だいたい何%」ではなく、一次データで確定
本レポートは、業界の主要企業を広く選定した65社を母集団とし、そのうち有価証券報告書(EDINET)で連結営業利益率を実数検証できた56社を分析対象、さらに中核18社をセグメント単位まで掘り下げています。数値はすべて各社の有価証券報告書(FY2025・2026年3月期など)から機械抽出し、どの会社のどのセグメントが何%の営業利益を出しているかを、出所とともに確定させました。
2026年4月に公開した初版が、公開情報・決算資料をもとに業界全体の傾向を俯瞰したものだったのに対し、本Ver.2はそれを一社ずつ有価証券報告書で実数検証し、セグメント単位まで掘り下げた増補改訂版です。
利益は「特化の効く両端」に集まっている
各社のセグメント別の営業利益率を、バリューチェーン(素材→装置→部品→モジュール→組立)の上に重ねると、両端が高く中間が沈む「スマイルカーブ」が現れます。

利益率が高いのは、両端です。川上の素材(信越化学のエレクトロニクス材料33.7%)・装置(アドバンテストのテストシステム50.9%)と、川下のAI高機能部品・独自技術(村田製作所のコンポーネント27.2%、ルネサスの車載30.7%、浜松ホトニクスの画像計測29.6%)が高く、中間の汎用モジュール・組立は低くなります。
中核18社の連結営業利益率は、最高がキーエンスの51.0%、最低がサンケン電気の▲5.9%まで開きました。分析対象56社では、20%以上が10社、一桁台が32社、赤字が2社と割れ、中央値は7.1%です。同じ「製造業」のなかで、これだけの差が生まれています。特化は、多角化を成功させるための必要条件でした。

分析対象56社の連結営業利益率の分布(中央値7.1%・一桁台に32社が滞留)
特化の明暗を分けたのは、「経営の設計」
特化は必要条件であって、十分条件ではありませんでした。冒頭のSiC3社が、その象徴です。同じ技術に投資しながら、ロームと京セラは谷を越え、サンケン電気は沈みました。
明暗を分けたのは技術力ではなく、谷の期間に赤字を吸収できる「多角化バッファ」の有無と、撤退・出口の設計でした。京セラは売上2兆円規模の多角化ポートフォリオで先行赤字を吸収し、燃料電池からの撤退を含むノンコア事業の見直しも進めています。一方、売上800億円規模のサンケン電気には、赤字を吸収する体力も、出口の設計も足りませんでした。
本レポートは、この崩れ方を3つの脆弱性——需要基盤の狭さ/技術オーナーシップの欠如/資本バッファの欠如——に整理しています。
大きな赤字の多くは、「本業の失敗」ではない
FY2025には目立つ赤字がいくつも出ましたが、中身はまるで違いました。村田製作所のマイナスは、買収したレゾナント社に関わるのれん438億円の全額減損が主因です。ロームはSiCの過大投資で減損1,936億円・純損失1,584億円を計上しました。これらは痛みを伴いますが、いずれも一時的な会計要因です。
一方で、サンケン電気の連結営業損失▲47.3億円は、減損がわずか4億円で、残りは本業そのものの構造赤字でした。「減損による赤字」と「本業の構造赤字」を一次データで読み分けると、事業の診断は大きく変わります。この読み分けを誤ると、痛みを出し切って回復に向かう会社と、本業が沈み続けている会社を、決算の赤字額だけで混同してしまいます。
「どこで儲かるか」だけでなく、「どう作ったか」
財務結果の分析にとどまらず、本レポートの後半では「その事業を、どんなビジネスモデルで、どんな組織で生んだのか」を解剖しています。ビジネスモデル変革の4類型、新規事業を生む組織の3類型(種まき型/M&A型/商品高速サイクル型)、そして大企業版「事業化の谷」を、実例に即して抜き出しました。財務の分析と、新規事業の作り方の分析を、一つのレポートで接続しています。
「どこで儲かるか」を知るだけでは、実務担当者は動けません。その事業を、どんな仕組みで生んだのかまで分かって、はじめて自社に持ち帰れるからです。
本連載のロードマップ
本記事は、半導体・電子部品業界レポート(Vol.1 増補改訂版 Ver.2)の全体像を整理したサマリーです。次回以降、それぞれのテーマを深掘りしていきます。
- 第2回:半導体・電子部品はどこで儲かるのか——利益の地図「スマイルカーブ」をセグメント実数で読む
- 第3回: 特化しても崩れる半導体企業——3つの脆弱性と、明暗を分ける「経営の設計」
- 第4回:その赤字は「本業の失敗」か——半導体企業の決算に潜む、減損と構造赤字の読み分け
- 第5回:半導体企業は新規事業をどう作ったか(前編)——ビジネスモデル変革の4類型
- 第6回:「半導体企業は新規事業をどう作ったか(後編)——組織の3類型と大企業版「事業化の谷」
詳細レポート(全49ページ)では、上記に加えて、中核18社のセグメント別実数、特化の5類型、海外の到達点(NVIDIA・TSMC・ASML)を「利益の天井」として参照した比較、そして自社の現在地を測る視点まで収録しています。
本レポートで提示した「利益の地図」と「特化しても崩れる条件」のフレームワークは、半導体・電子部品以外の領域でも、自社の技術優位がどこで利益に変わるかを構造的に整理する道具として使えます。自社の状況を整理したい方向けに、レポート本体を公開しています。
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