業界別レポート
特化しても崩れる半導体企業——3つの脆弱性と、明暗を分ける「経営の設計」
同じSiCに投資した3社。越えた会社と沈んだ会社を分けたのは、技術力ではなかった(連載・全6回/第3回)
発行: アーキタイプ株式会社 / 2026年7月
シリーズ: 半導体・電子部品 多角化の経済学(第3回/全6回)
前回は、利益が「特化の効く両端」に集まることを、実数で確認しました。では、特化さえすれば安泰なのでしょうか。答えは「いいえ」です。
本記事は、連載第3回として「特化しても崩れる」条件を扱います。同じ次世代パワー半導体(SiC)に投資しながら、明暗が分かれた3社を起点に、特化が弱点に変わる「3つの脆弱性」を解き明かします。
同じ技術に投資したが、結果は明確に分かれる
半導体・電子部品の3社が、同じSiCに投資しました。SiCは、電気自動車などに使われる次世代のパワー半導体です。ところが、直近の連結営業利益率の推移を見ると、結果は3社で大きく分かれました。
数値は各社の有価証券報告書(FY2025・2026年3月期など)から機械抽出した連結実数
ロームは先行赤字の「谷」を越えて回復し、京セラも水準を引き上げました。一方、サンケン電気はさらに沈みました。3社とも、技術は一流です。では、明暗を分けたものは何だったのでしょうか。

同じSiCに投資した3社のFY2024→FY2025・連結営業利益率——京セラ・ロームは谷を越え、サンケン電気は沈んだ。レポートより抜粋
分けたのは、技術力ではなく「経営の設計」
分けたのは、技術力ではありませんでした。谷の期間に赤字を吸収できる「多角化バッファ」の有無と、撤退・出口の設計です。
京セラは、売上2兆円規模の多角化ポートフォリオを持ちます。SiCの先行赤字を、他の事業の利益で吸収できました。加えて、燃料電池からの撤退を含む2,000億円規模のノンコア事業の見直しも進めています。守りと攻めの両面で、経営が設計されていました。
一方、サンケン電気の売上は800億円規模です。しかも直近の決算では、報告セグメントを「半導体デバイス事業」の単一セグメントに再編しました。パワー半導体に賭けを集中させた形で、赤字を吸収する多角化の余地も、逃げ場も残っていませんでした。同じ技術に投資しても、それを支える「経営の設計」が、明暗を分けたのです。
特化が弱点に変わる「3つの脆弱性」
本レポートは、特化が弱点に変わる崩れ方を、3つの脆弱性に整理しています。
1. 需要基盤の狭さ
単一の川下需要に依存すると、その需要が崩れたとき逃げ場がありません。サンケン電気が単一セグメントに再編したのは、まさにこの状態です。一つの用途に賭けを集中させると、市況の谷がそのまま経営の谷になります。
2. 技術オーナーシップの欠如
中核技術を外部に依存すると、谷の局面で自力の立て直しが効きません。買収で得た外部技術に頼った事業が、専業の競合に押されて回収できなくなる——この崩れ方は、次回(第4回)で村田製作所の実例とともに詳しく扱います。
3. 資本バッファの欠如
先行赤字の谷を吸収する多角化や体力がなければ、一度の谷で沈みます。京セラ(2兆円規模)とサンケン電気(800億円規模)の差は、この資本バッファの差でもありました。
特化は必要条件ですが、この3つの脆弱性のどれかを抱えたまま特化に賭けると、強みが弱みに反転します。

特化の5類型と、それを崩す3つの脆弱性(需要基盤の狭さ・技術オーナーシップの欠如・資本バッファの欠如)。レポートより抜粋
特化型でも、崩れることがある
「特化していれば高収益で安定」とも限りません。その反証が、浜松ホトニクスです。
浜松ホトニクスは、光技術に特化した高収益企業でした。ところが直近の連結営業利益率は、前期の15.7%から7.6%へと8.1ポイント低下しました。とりわけレーザー事業は、営業利益率がマイナス19.4%まで落ち込んでいます。特化型の優等生でさえ、買収した事業の統合コストと市況の谷が重なると、利益率は大きく振れます。
特化は、多角化を成功させる必要条件です。しかし、十分条件ではありません。必要なのは、特化に加えて、需要基盤・技術オーナーシップ・資本バッファという3つの脆弱性を、経営としてどう設計するかです。
自社の特化戦略が、この3つの脆弱性のどれを抱えているか。まずは、そこを点検することから始まります。アーキタイプでは、新規事業・多角化の体制を6つの軸で自己点検できる無料の診断を公開しています。判断基準・撤退ルールや、資源配分の本気度といった軸で、自社の現在地を3分で測ることができます
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