業界別レポート
組込型金融(BaaS)の事例 — 楽天銀行・GMOあおぞらネット銀行と組込型保険の接続口
楽天銀行の専用支店、GMOあおぞらネット銀行の銀行API、損害保険ジャパンのMiracraw、東京海上日動の組込型火災保険。金融側が公表している組込型金融(BaaS)と組込型保険の接続口と、接続する側が契約で確かめる点を解説します。
発行 : アーキタイプ株式会社 / 2026年10月
シリーズ : 金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器(第5回 / 全6回)
本連載は、業界レポート Vol.8「金融・保険業界 新規事業・多角化 実態調査レポート」を、事例から読み直す全6回です。レポートの結論は二つあります。金融に入る事業会社は主に提携で入り、金融機関のうち新規事業の器を作る側は、会社を作って外へ出ること。そして、会社を作って出るなら、作る前に畳み方と承継先を決めておくことです。第5回は、金融に入る事業会社がつながる先、金融側が公表している組込型金融(BaaS)と組込型保険の接続口を見ていきます。
本連載では、新規事業を持つ会社や枠組みを「器」、器として終えること(解散・売却・合併・本体への吸収を含む)を「畳む」と呼びます。
当社は金融機関の新規事業創出に参画していますが、本連載の分析はすべて公表資料に基づき、参画先で得た非公開情報は用いていません。本連載は公表資料が存在する取組を取り上げたもので、取り上げた会社の優劣を示すものではありません。
接続口は、免許を持つ側が用意する
金融に入る事業会社には、免許を自ら取らずに、免許を持つ側に接続する道があります。その入口は制度として用意されてきました。2017年成立の改正(2018年6月1日施行)は電子決済等代行業を登録制で設け、銀行のAPIに接続する事業者を銀行免許なしで位置づけました。2020年の金融サービス仲介業は、銀行・証券・保険の仲介を一つの登録で可能にしました。
接続できる相手は、金融側がどこまで機能を外に出しているかで決まります。FY2025の有価証券報告書の本文(事業の内容・対処すべき課題・事業等のリスクなど6区分)を180提出者分確かめると、BaaS(Banking as a Service。銀行機能を他社のサービスに提供する形)に触れた提出者は5社、「エンベデッド・ファイナンス」は1社、「組込型保険」の語は0社でした。数は少ないものの、公表されている接続口は次の型に分かれます。
型 | 提供者 | 公表されている内容 | 出所 |
|---|---|---|---|
銀行機能を貸す(BaaS) | 楽天銀行/GMOあおぞらネット銀行 | 専用支店と銀行代理業で提携企業の口座を開く/組込型金融のAPI・契約累計1,000件 | 有価証券報告書(楽天銀行)/自社サイト(GMOあおぞらネット銀行) |
地域金融機関の中期経営計画 | 東京きらぼしフィナンシャルグループ/池田泉州ホールディングス/ふくおかフィナンシャルグループ | BaaS機能とAtoA決済/BaaS事業(法人)/地域プラットフォーム | 有価証券報告書 |
認可型の器で機能を貸す | セブン銀行(ACSiON) | 非金融機関への不正検知サービス | ニュースリリース(2019年12月) |
組込型保険 | ライフネット生命保険/損害保険ジャパン/三井住友海上火災保険/東京海上日動火災保険・東京海上ホールディングス | 経済圏に組み込む・団体信用生命保険/Miracraw/Ancileo出資/RENOSYの組込型火災保険・bolttech提携 | 有価証券報告書(ライフネット生命保険)/各社ニュースリリース |
組込型ローン | アコム(GeNiE) | エンベデッド・ファイナンスの利用サービス拡大 | 有価証券報告書 |
数値と表現はいずれも2026年10月時点の公表ベースです。
銀行機能を貸す:楽天銀行・GMOあおぞらネット銀行・セブン銀行
楽天銀行は有価証券報告書で、地域金融機関と事業会社に対するBaaSの提供を「オープンプラットフォーム戦略の一環」と位置づけています。提携企業が「当行の銀行代理業者として」専用支店の口座開設を媒介する仕組みです。2023年1月には「楽天銀行 第一生命支店」を開いて生命保険会社に銀行機能を提供し、JR東日本グループの「JRE BANK」との協業も2019年から続きます。電子決済等代行業者との連携方針を公表し、参照系・更新系のAPIを公開しています。接続の仕組みが、法定開示である有価証券報告書の「事業の内容」に書かれている例です。
GMOあおぞらネット銀行は、あおぞら銀行が議決権の85.1%を持つ子会社です。「組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)」の名で銀行APIを公開し、サービス契約数の累計1,000件を自社サイトに掲げています。この件数は有価証券報告書とは別の、自社サイトの数字です(2026年10月14日取得)。
セブン銀行は、銀行業高度化等会社の認可を受けた子会社ACSiONを通じて、不正検知の機能を非金融へ貸しています。銀行の器が、機能を外に貸す側に立つ形です。
地域金融機関の中計に、BaaSが載り始めた
東京きらぼしフィナンシャルグループは、有価証券報告書で「取引先にUI銀行のBaaS機能やAtoA決済機能などを提供」すると書きました。同時に事業等のリスクにも、「BaaS事業においては、システム障害発生時に提携先に対し適切なサービスが提供できない場合」を挙げています。接続先の障害が提携先の事業に及ぶことを、銀行の側が明記した例です。
池田泉州ホールディングスは2026〜2028年度の重点戦略に「BaaS事業(法人)」を置き、ふくおかフィナンシャルグループはBaaSなどを使って「地域企業等と連携し、金融・非金融機能を提供する」地域プラットフォームを掲げています。
保険の組込:有報の本文には語が無く、リリースには並ぶ
ライフネット生命保険は、有価証券報告書で「パートナー企業の経済圏に保険ビジネスを組み込む」と書きます。KDDIを保険募集代理店とし、auじぶん銀行の住宅ローン利用者向けの団体信用生命保険(2023年7月から)や、京都信用金庫との団体信用生命保険の業務提携(2025年11月契約)を挙げています。
損害保険ジャパンは2026年6月16日、パートナー企業のオンラインサービスへの「エンベデッド・インシュアランス(組込型保険)の実装を大幅に簡略化」する募集システム「Miracraw」の本格展開を公表しました。会社を作らず、本体の募集基盤として持つ形です。
東京海上日動火災保険は2023年5月、GA technologies・Finatextと、投資用不動産サービス「RENOSY」の中の組込型火災保険を「国内の不動産業界および保険業界で初」として始めました。東京海上ホールディングスは2022年10月のbolttechとの資本業務提携で、組込型保険を「保険商品をパートナーとなる事業者の商品・サービスに組込み、一つの商品・サービスとして提供するもの」と定義しています。三井住友海上火災保険は2026年3月、シンガポールのAncileoへの出資で「デジタル組込型旅行保険事業の拡大」を掲げました。
180提出者の有価証券報告書の本文6区分に「組込型保険」の語はありませんでしたが、各社のリリースには組込型保険・エンベデッド・インシュアランスの語が出てきます。
接続する側が、契約で確かめること
提携・組込で入る事業会社は、降りるときに契約を解けば済みます。その分、接続先が機能をどの器で持っているかを確かめておく意味があります。
レポートは、接続先の銀行が認可型の器で非金融を持っているなら、その器の畳み方まで確認するよう勧めています。相手が畳めば、接続も消えるからです。相手が本体業務や投資の器で持っているなら、畳むときは目標の取り下げや投資先の処分として現れ、外からは見えにくくなります。そこで、接続の契約に、相手側の器の変更を通知する条項を入れておきます。
機能を外に貸す側の楽天銀行とセブン銀行は、どちらも非金融の親を持つ銀行です。接続する事業会社と同じ構造を、自らの中に持っています。事業会社の側から見た金融の重さは、第4回で扱いました。
自社への問い
接続先は、その機能をどの器で持っているか(本体・子会社・認可型の器・投資の器)
接続先の器が変わったとき、通知を受ける条項が契約にあるか
接続が消えたとき、自社のサービスの利用者に何が起きるかを確かめたか
本記事は連載「金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器」(全6回)の第5回です。
連載の全記事:
組込型金融(BaaS)の事例 — 楽天銀行・GMOあおぞらネット銀行と組込型保険の接続口(本記事)
資料編: 銀行業高度化等会社 一覧(公表ベース70社・根拠URL付き)と101社の6軸
金融側の接続口の一覧、3本の改正法の施行日、入る側の打ち手は、レポート本体(全64ページ・無料)に収めています。
→ レポートを読む:https://archetype.co.jp/download/finance
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