業界別レポート
地方銀行の新規事業は、どの器で持つか — 第一地銀54グループの6類型と転換認可
第一地方銀行61行・54グループの新規事業を、器の型で整理しました。地域商社・人材・IT・再エネ・本体業務・投資専門子会社の6類型と、ちばぎん商店・ごうぎんエナジー・転換認可の百五と群馬の事例を、一次資料で紹介します。
発行 : アーキタイプ株式会社 / 2026年10月
シリーズ : 金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器(第2回 / 全6回)
本連載は、業界レポート Vol.8「金融・保険業界 新規事業・多角化 実態調査レポート」を、事例から読み直す全6回です。レポートの結論は二つあります。金融に入る事業会社は主に提携で入り、金融機関のうち新規事業の器を作る側は、会社を作って外へ出ること。そして、会社を作って出るなら、作る前に畳み方と承継先を決めておくことです。第2回は、地方銀行の新規事業を、どの器で持っているかという切り口で見ていきます。
本連載では、新規事業を持つ会社や枠組みを「器」、銀行グループの器として終えること(解散・売却・合併・本体への吸収を含む)を「畳む」と呼びます。
当社は金融機関の新規事業創出に参画していますが、本連載の分析はすべて公表資料に基づき、参画先で得た非公開情報は用いていません。本連載は公表資料が存在する取組を取り上げたもので、取り上げた会社の優劣を示すものではありません。
第一地銀54グループの器の型
対象は、全国地方銀行協会の会員である第一地方銀行61行です。持株会社が複数の銀行を束ねる場合があるため、有価証券報告書の提出者としては54グループになります(関西みらい銀行は大手側で扱うため、54グループは60行分です)。第二地方銀行・信用金庫・信用組合は扱っていません。
54グループのうち、子会社・合弁・買収の器を持つのは47、投資専門子会社やCVCを持つのは37でした。銀行業高度化等会社(銀行法の認可を受けて銀行が持つ非金融の子会社)に、現在・過去・共同出資のいずれかで関与しているのは43です(現在35・過去2・共同6・公表ベース)。本体の業務として持つ型は3にとどまります。

純利益の規模帯で切ると、認可の器はどの帯にもあります。純利益10億円台の銀行から900億円台の銀行まで、規模を問わず使われていました。
ただし、公表資料から観測できるのは、目標を掲げているかどうかと、どの器で持っているかまでです。収益化の有無は開示からは判定できません。本記事も、器の型を並べるだけで、収益化を評価しません。
事業内容で分けた6つの類型
54グループを、高度化等会社と非金融子会社の事業内容で6つの類型に分け、一次資料で確認できた代表を挙げます。代表は一次資料のURLが確認できた先から選んだもので、優劣を示すものではありません。類型に入らないグループは6あります。
類型 | 代表(一次資料で確認) | 器の作り方 |
|---|---|---|
① 地域商社型 | ちばぎん商店(千葉銀行100%・2021年5月設立) | 新設 |
② 人材型 | 八十二スタッフサービス(八十二銀行〔現・八十二長野銀行〕・2022年6月認可) | 既存子会社の認可(転換) |
③ IT・DX型 | 紀陽情報システム(紀陽銀行・2021年7月認可)/ぐんぎんコンサルティング(2023年3月)・百五デジタルソリューションズ(2025年4月) | 一般型/転換 |
④ 再エネ型 | ごうぎんエナジー(山陰合同銀行・2022年7月設立) | 新設 |
⑤ 本体業務型 | 山梨中央銀行 | 本体の補完業務 |
⑥ 投資専門子会社型 | 阿波銀キャピタル(阿波銀行100%・2023年7月設立)・いわぎん未来投資(岩手銀行) | 投資の器 |
ちばぎん商店は、ECサイトでの地域産品の販売支援、購入型クラウドファンディングの運営、地域ブランド商品の企画開発、銀行店舗を使ったマルシェを手がけます。2021年5月10日に「銀行業高度化等会社の設立認可取得」をリリースの表題に掲げて公表しました。設立の目的には「地域内での経済循環システムを構築」とあり、数値目標の記載はありません。
ごうぎんエナジーは、再エネ電源の取得・運転と電力の販売を営みます。設立のリリースには「当該事業に関する金融機関による他業銀行業高度化等会社の設立は全国でも初」とあります。再エネ型はその後、常陽グリーンエナジー(2022年7月)、ひまわりグリーンエナジー(2023年4月)、KSエナジー(2023年12月)、とうぎんリニューアブル・エナジー(2024年2月)、しがぎんエナジー(2024年4月)、フィデアエナジー(2024年11月)などと続きました。発電事業の損益が銀行グループの数字に現れるまでには、時間がかかります。
地域商社:2020年9月までに認可された4社の現況
地域商社型の高度化等会社は、2019年から公表が始まりました。金融審議会資料の年表(公表ベース)に載る、2020年9月までに認可を受けた地域商社は4社で、2026年9月時点では3社が続いています(連結子会社2社、4行の共同出資による関連会社1社)。残る1社は合併により、銀行グループの器ではなくなりました。2020年11月以降も、せとのわ(中国銀行・山陽新聞社・天満屋の合弁)やちばぎん商店のように、地域商社を新たに持つ例が続いています。
地域商社の個社の経過は、第1回と、当社サイトの資料編にまとめました。
新設か、転換か ── 器の作り方と並べ方
同じ事業内容でも、器の作り方は三つに分かれます。新しい会社を作る型、既存の子会社に機能を足す型、既存の子会社の認可区分を変える型です。作り方が違えば、畳むときの手間も違います。新設の会社を畳むには、解散や売却といった会社の処分が要ります。既存の会社の認可区分を変えた場合は、認可を外しても会社は残ります。
既存の子会社を使う例として、八十二スタッフサービス(現・八十二キャリアリンク)は1986年9月設立の既存子会社に認可を受けたもので(転換)、新しい会社を作っていません。リリースは「人材派遣業務等を営む子会社についての認可取得事例は全国初」と記しています。ごうぎんキャリアデザインは、既存の事務受託子会社に有料職業紹介を足しました。
IT子会社でも、2022年以降に転換の認可が続きました。群馬銀行は2023年3月30日に、子会社のぐんぎんコンサルティングを他業銀行業高度化等会社へ転換する認可を取得し、人材ソリューションと地域商社・マーケティングの事業を足しました。百五銀行は1990年設立の百五デジタルソリューションズを2025年4月1日付で、七十七銀行は七十七デジタルソリューションズを2025年8月に転換しています。新しい会社を作らないので、畳むときに処分する会社が増えません。
持株会社が複数の器を並べる例もあります。十六フィナンシャルグループは、2022年2月21日に十六コンピュータサービスで他業銀行業高度化等会社の認可を取り、「2021年11月の改正銀行法の施行後、他業銀行業高度化等会社の認可を取得するのは当社が初めて」と記しました。2023年7月には、日本M&Aセンターホールディングスとの合弁NOBUNAGAサクセションを設立しています。ふくおかフィナンシャルグループは、デジタルバンク「みんなの銀行」(2021年5月開業)、金属加工の総合商社FFGインダストリーズ(2023年設立)、FFGベンチャー4号ファンド(2025年・100億円)を同じグループに並べています。
本体と投資の器は、外から見えにくい
山梨中央銀行は、観光・脱炭素・広告マーケティングを本体の補完業務として中期経営計画に置き、2025年4月1日にはやまなし地域デザインを設立して高度化等会社も持ちました。
本体業務型は器が無いので、止まるときは目標の取り下げとして現れ、外からは見えにくくなります。
阿波銀行は2023年7月に投資専門子会社の阿波銀キャピタルを設け、2026年1月に5億円のイノベーションファンドを組成しました。岩手銀行は、いわぎん未来投資が運営するいわぎんCVC1号ファンド(30億円・2023年10月設立)を持ちます。投資の器では、投資先を処分したときにそれが親銀行のリリースに載るかどうかを、レポートではまだ検証できていません。
自行の現在地を測る5問
レポートでは、地銀の実務家が自行に当てるための問いを5つ置きました。答えは、一次資料に書いてあるかどうかで判定します。
非金融事業の目標は、比率か、金額か、目安の水準か。どの資料の何ページに書いてあるか
器はどの型か(本体・子会社・認可・投資)。認可なら新設か、取込か、転換か
その器を畳むとき、会社の処分が要るか。承継先(本体吸収・合弁相手・買い手)を決めているか
撤退の判定に使う財務数値を、作る前に決めたか。それはどの会議体が見るか
投資の器で持つ事業について、投資先の処分をどの資料で開示するか決めているか
本記事は連載「金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器」(全6回)の第2回です。
連載の全記事:
地方銀行の新規事業は、どの器で持つか — 第一地銀54グループの6類型と転換認可(本記事)
資料編: 銀行業高度化等会社 一覧(公表ベース70社・根拠URL付き)と101社の6軸
6類型の個別の経過、第一地銀54グループの器の型の分布、各型が止まるときに現れる事実は、レポート本体(全64ページ・無料)に収めています。
→ レポートを読む:https://archetype.co.jp/download/finance
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