業界別レポート
異業種の金融参入事例 — イオン・セブン&アイ・伊藤忠商事・楽天・ソニーの有報に見る入り方と降り方
イオン・セブン&アイ・伊藤忠商事・楽天・ソニーの有価証券報告書から、事業会社が金融事業をどれだけの重さで持ち、どう入り、どう降りたかを読みます。総合金融が営業利益の22.5%を占めるイオンなど、異業種の金融参入事例です。
発行 : アーキタイプ株式会社 / 2026年10月
シリーズ : 金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器(第4回 / 全6回)
本連載は、業界レポート Vol.8「金融・保険業界 新規事業・多角化 実態調査レポート」を、事例から読み直す全6回です。レポートの結論は二つあります。金融に入る事業会社は主に提携で入り、金融機関のうち新規事業の器を作る側は、会社を作って外へ出ること。そして、会社を作って出るなら、作る前に畳み方と承継先を決めておくことです。第4回は向きを変えて、金融の外から金融に入る側、異業種の金融参入事例を見ていきます。
本連載では、新規事業を持つ会社や枠組みを「器」と呼びます。
当社は金融機関の新規事業創出に参画していますが、本連載の分析はすべて公表資料に基づき、参画先で得た非公開情報は用いていません。本連載は公表資料が存在する取組を取り上げたもので、取り上げた会社の優劣を示すものではありません。
事業会社の有報で、金融の重さを見る
非金融企業が金融事業をどれだけの重さで持っているかは、有価証券報告書のセグメント情報で確かめられます。5社のFY2025の数字を並べます。会計基準の違う会社を混ぜて読まないよう基準を併記し、比率は外部顧客向けの収益を分子に取りました。会計基準とセグメント利益の定義が会社ごとに違うため、会社どうしの比較はしません。
会社(会計基準・決算期) | 金融セグメント名 | セグメント収益 | 連結収益に占める比率 | セグメント利益 | 連結利益に占める比率 |
|---|---|---|---|---|---|
イオン(日本基準・2026年2月期) | 総合金融 | 外部顧客への営業収益 4,862億円 | 4.5% | セグメント利益 609億円 | 22.5%(対連結営業利益) |
セブン&アイ・ホールディングス(日本基準・2026年2月期) | 金融関連事業 | 外部顧客への営業収益 1,218億円 | 1.2% | セグメント利益 210億円 | 5.0%(対連結営業利益) |
伊藤忠商事(IFRS・2026年3月期) | 情報・金融 | 外部顧客からの収益 1兆1,031億円 | 7.4% | 当社株主に帰属する当期純利益 930億円 | 10.3% |
楽天グループ(IFRS・2025年12月期) | フィンテック | 売上収益 9,759億円 | 比率は出さない | セグメント損益 1,999億円(モバイルエコシステム貢献考慮後) | 比率は出さない |
ソニーグループ(IFRS・2026年3月期) | 金融事業は非継続事業(表外) | 金融ビジネス収入 6,780億円(注記) | 算出せず | — | 算出せず |
出所は各社FY2025有価証券報告書のセグメント情報です。伊藤忠商事の「情報・金融」は情報・通信分野を含みます。楽天グループは、セグメント損益の合計(1,270億円)にモバイルの損失を含むため比率を出していません。ソニーグループは、2025年10月1日のスピンオフで金融事業を連結から外しました。
イオンでは、総合金融の外部顧客への営業収益が連結の4.5%であるのに対し、セグメント利益は連結営業利益の22.5%を占めます。セブン&アイ・ホールディングスでは1.2%に対して5.0%です。収益より利益の比率が大きい形が2社で共通しますが、これは小売と金融の営業利益率の差の反映で、参入の成否を示す数字ではありません。
入り方:免許を持つ会社を、どう持つか
5社は、金融の入り方がそれぞれ違います。
イオン: クレジットカード・フィービジネス・銀行業を「総合金融事業」で報告しています。免許を持つ会社をグループ内に持つ型です
楽天グループ: クレジットカード・銀行・証券・保険・ペイメントなどを「フィンテック」で報告しています。楽天銀行の49.27%を保有し、免許を持つ会社を子会社に持つ型です
セブン&アイ・ホールディングス: 銀行業・クレジットカード事業などを「金融関連事業」で報告しています。セブン銀行の被所有割合は33.40%で、免許を持つ会社に出資する型です
伊藤忠商事: 免許を持つ会社を子会社にせず、東京センチュリーの持ち分30.0%を保有します。セグメント利益の指標は株主帰属当期純利益で、持分法による投資損益を含みます
ソニーグループ: かつては自前の金融子会社を報告セグメントの一つに持っていましたが、2025年10月に切り離しました
イオン・セブン&アイ・楽天はグループ内に銀行免許を持つ会社があり、伊藤忠商事は免許を持つ会社を子会社にせず持ち分で持ち、ソニーグループは切り離しました。入り方も、降り方も、5社で違います。
降り方:ソニーは切り離し、有報に残した
ソニーグループは、2025年5月14日の取締役会で金融事業のスピンオフ方針を決め、9月3日に実行を決議し、10月1日に普通株式1株につきソニーフィナンシャルグループの株式1株を現物配当しました。保有は16.40%(ソニーフィナンシャルグループ側の有報では17.4%)の持分法適用関連会社に変わり、金融事業は非継続事業として区分表示されています。金融は報告セグメントから外れ、連結の売上高・営業利益の外側に置かれました。
器を降りる過程が、有価証券報告書の「報告セグメントの変更」と注記に、日付つきで残っています。降り方が有報に残った例です。
入り方によって、降り方の手間は変わります。自前で免許を持つ型は、免許を返上するか会社を売らなければ降りられません。会社を買って入った型は、買った会社を再び売ることになります。提携・組込型は、契約を解けば降りられます。
非金融の入口は、提携と組込が中心
当社の新規事業データベースから、金融・保険以外の日本企業が金融に参入したと読める事例を、事例タイトルに含まれる語で抜き出すと487件ありました。当社データベースの収録ベースで、事例タイトルからの機械的な抽出のため、一件ごとの一次確認は経ていません。
形態で分けると、提携・自社サービス(組込型を含む)が388件で約8割、自前免許・子会社が20件で約4%、買収が11件、その他が68件でした。非金融の側は、降りやすい入口を選んでいることになります。同じ時期に、金融の側のうち器を作った側が選んだのは、認可を取って会社を作る、降りにくい出口でした。両者は母集団も抽出の方法も違うため、非対称の幅は測れませんが、この向きの違いがレポートの主命題の骨格です。
海外では、銀行のDBS(シンガポール)も、提携で入り提携から降りる型を使っています。DBSのイノベーション組織については、当社の記事「DBS Asia X銀行を「22,000人のスタートアップ」に変えた文化変革」で取り上げています。
入る側と出る側が、同じ会社に同居する
非金融の親を持つ銀行は、越境の交差点にもなっています。楽天銀行は2023年1月に「楽天銀行 第一生命支店」を開き、生命保険会社に銀行機能を提供するBaaSを始めました。JR東日本グループの「JRE BANK」との協業も2019年から続きます。セブン銀行は2019年12月、不正検知の子会社ACSiONについて銀行業高度化等会社の認可を取得し、「非金融機関への不正検知サービス提供が可能」になったと公表しました。
非金融の親を持つ銀行が、自らの機能を非金融へ貸し出しています。入る側と出る側が、同じ会社の中に同居している形です。金融側が用意している接続口は、第5回で扱います。
自社への問い
金融を連結の柱に据えるのか、免許を持つ側に接続して取り込むのか
その入り方なら、降りるときに何が要るか(免許の返上・会社の売却・契約の解除)
金融の収益と利益を、セグメントか注記で分けて開示しているか
本記事は連載「金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器」(全6回)の第4回です。
連載の全記事:
異業種の金融参入事例 — イオン・セブン&アイ・伊藤忠商事・楽天・ソニーの有報に見る入り方と降り方(本記事)
資料編: 銀行業高度化等会社 一覧(公表ベース70社・根拠URL付き)と101社の6軸
非金融側から見た金融の重さ、3本の改正法がつくった入口と出口、海外4法域との比較は、レポート本体(全64ページ・無料)に収めています。
→ レポートを読む:https://archetype.co.jp/download/finance
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