業界別レポート
銀行の新規事業事例 — 銀行業高度化等会社という器と、金融庁資料に載る18社の現況
銀行が非金融の新規事業を持つ器、銀行業高度化等会社。金融庁資料に載る18社を一次資料で追うと、2026年9月時点で存続は10社でした。存続する器の事例と、器として終わるときの記録が親銀行のリリースの外に残る理由を解説します。
発行 : アーキタイプ株式会社 / 2026年10月
シリーズ : 金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器(第1回 / 全6回)
本連載は、業界レポート Vol.8「金融・保険業界 新規事業・多角化 実態調査レポート」を、事例から読み直す全6回です。レポートの結論は二つあります。金融に入る事業会社は主に提携で入り、金融機関のうち新規事業の器を作る側は、会社を作って外へ出ること。そして、会社を作って出るなら、作る前に畳み方と承継先を決めておくことです。第1回は、銀行の新規事業事例を、銀行業高度化等会社という制度上の器から見ていきます。
本連載では、新規事業を持つ会社や枠組みを「器」、銀行グループの器として終えること(解散・売却・合併・本体への吸収を含む)を「畳む」と呼びます。
当社は金融機関の新規事業創出に参画していますが、本連載の分析はすべて公表資料に基づき、参画先で得た非公開情報は用いていません。本連載は公表資料が存在する取組を取り上げたもので、取り上げた会社の優劣を示すものではありません。
銀行が新規事業を持つための器
銀行は、本業の外の事業を自由には営めません。銀行法第12条が他業を禁じ、第16条の4が非金融企業への出資を議決権の5%までに限っています。その例外として置かれたのが、第16条の2第1項第15号の銀行業高度化等会社です。子会社にするには内閣総理大臣の認可が要ります(第16条の2第4項)。
この器は、2016年成立の改正(2017年4月1日施行)で生まれました。法律案の理由には「金融グループと金融関連IT企業等との提携の容易化」とあります。2021年成立の改正(2021年11月22日施行)では、類型の定義に「地域の活性化、産業の生産性の向上その他の持続可能な社会の構築に資する業務」が加わりました。最初の器はテックのため、2021年以降の器は地方創生のために広げられたことになります。

同じ時期に、非金融の側には別の入口が開きました。2017年成立の改正(2018年6月1日施行)が設けた電子決済等代行業は登録制で、銀行のAPIに接続する事業者を銀行免許なしで位置づけました。条文上は、金融が外へ出る主な道は認可を取って会社を作ること、外から金融に入る道は免許を持つ側に接続することとして、制度が用意されました。この非対称が、連載全体の背骨です。入る側の事例は第4回と第5回で扱います。
金融庁の資料に載る18社
銀行業高度化等会社として認可された会社を、社名と年月で並べた常設のページは、金融庁サイトの14ページとサイト内検索の範囲では見つかりませんでした。金融庁が作った一覧に近い資料は、2020年10月7日の金融審議会 銀行制度等ワーキング・グループ第1回の事務局説明資料です。同資料は「2017年4月の制度施行以来、約20の会社が高度化等会社に係る個別認可を受けた」と記し、年表に18社を載せています。年表は銀行・銀行グループが公表した会社をまとめたもので、本記事の数字もすべて公表ベースです。
18社の公表年は、2017年2社、2018年5社、2019年7社、2020年(9月まで)4社です。類型は資料の凡例でテック/フィンテック14社、地域商社4社でした。
この18社を、各社の設立時リリース、親銀行の有価証券報告書、国税庁の法人番号公表サイト、買い手側の適時開示で一社ずつ確かめました。2026年9月時点で存続しているのは10社です。銀行グループの高度化等会社でなくなったのは8社で、内訳は事業を終えた(解散・清算)4社、売却2社、合併による消滅2社です。売却・合併の4社は、買い手や存続会社のもとで事業が続いています。

8社の社名と、18社すべての根拠URLは、当社サイトの資料編に一覧で置きました。
存続している器の事例
存続10社の内訳は、連結子会社7社、持分法非適用の関連会社1社、親銀行の有価証券報告書の関係会社欄に載らない少数出資2社です。ここでは7社の事例を、器の持ち方で分けて見ます。
テック・フィンテックの器
Japan Digital Design: MUFGが100%出資で2017年7月31日に設立決定を公表しました。目的は「銀行業の高度化ならびに利用者の利便性の向上…に資する開発、販売等」です。連結子会社として続いています
SMBCクラウドサイン: SMFGが51%、弁護士ドットコムが49%を持つ合弁で、2019年10月1日に設立されました。電子契約サービスを営む連結子会社です。設立のリリース本文に「銀行業高度化等会社」の語は無く、高度化等会社であることは金融庁の資料の分類で分かります
ACSiON: セブン銀行と電通国際情報サービス(現・電通総研)の合弁で、2019年12月5日に認可取得を公表しました。リリースには「非金融機関への不正検知サービス提供が可能」とあります。銀行の器が、非金融に機能を貸す側に立つ例です
地域商社と、共同出資・少数出資の器
TRYパートナーズ: 山形銀行が100%出資し、2020年4月1日に開業した地域商社です。山形銀行の有価証券報告書は、事業等のリスクに「商社業…商品在庫のリスク」を明記しています。器を作れば、銀行に無かったリスクが有価証券報告書に載ります
manordaいわて: 岩手銀行が100%出資し、2020年4月1日に設立した地域商社です。設立のリリースに「銀行法第16条の2第1項第12号の3に規定された銀行の子会社」と、条文の号数まで書いています
Shikokuブランド: 阿波・百十四・伊予・四国の4行が各25%を出資し、2020年4月1日に設立した地域商社です。4行が均等に持つため、どの行の「関係会社の状況」の表にも出ず、「事業の内容」の注記で確認できます
フィンクロス・デジタル: 地銀7行が各14.3%で設立し、2019年9月にきらぼし銀行が加わって8行が各12.5%を持ちます。少数出資のため親銀行の「関係会社の状況」には載らず、存続は会社サイトとgBizINFOで確かめました
7社を並べると、存続の記録が置かれる場所は器の持ち方で変わります。連結子会社は合弁も含めて親銀行の有価証券報告書の表に載り、4行均等の共同出資や少数出資の器は表に出ず、注記や会社自身のサイトにしか現れません。
終わるときの記録は、半分が別の場所にある
器を作るときには、認可の取得を表題に掲げて公表する例があります。manordaいわてのように、条文の号数まで書くリリースもあります。
一方で、銀行グループの高度化等会社でなくなった8社のうち、その事実を親銀行自身のリリース(持株会社を含む)で読めるのは4社でした。残り4社の事実は、グループ会社の公表、合弁相手の公表、買い手側の適時開示、登記の閉鎖でしか分かりません。有価証券報告書の「関係会社の状況」からは翌年度に社名が消えますが、消えた理由はそこには書かれていません。
これは担当者や個々の会社の対応というより、器の設計の問題です。畳む形は解散だけでなく、本体への吸収、合弁相手への売却、買い手への譲渡があり、どの形でも承継先が要ります。レポートは、作る前に承継先(本体・合弁相手・買い手)を決めておけば、畳むときの記録を親銀行自身のリリースにでき、決めていなければ記録は登記の閉鎖や相手側の開示に残る、と結論づけています。
2020年11月以降の52社は、まだ評価しない
金融審議会資料の年表より後にも、公表ベースで52社(2020年11月〜2026年9月)の高度化等会社が加わり、地域商社、人材、エネルギー、教育、農業、既存の子会社の転換へと器の種類が広がりました。これらは認可から日が浅いため、存続かどうかの評価は、2020年9月までに公表された18社に限っています。2026年9月時点の現況は、資料編に事実だけを載せています。
地方銀行がこの器をどう使っているかは、第2回で扱います。
自社への問い
器を作る前に、承継先の候補(本体・合弁相手・買い手)を決めているか
器を終えるときの事実を、どの資料に、誰の名前で書くかを決めているか
共同出資や少数出資の器は、どの資料で存続を確かめられるか
本記事は連載「金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器」(全6回)の第1回です。
連載の全記事:
銀行の新規事業事例 — 銀行業高度化等会社という器と、金融庁資料に載る18社の現況(本記事)
資料編: 銀行業高度化等会社 一覧(公表ベース70社・根拠URL付き)と101社の6軸
18社の一社ごとの経過、第一地方銀行61行の器の型、海外4法域との比較は、レポート本体(全64ページ・無料)に収めています。
→ レポートを読む:https://archetype.co.jp/download/finance
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