業界別レポート
新規事業の撤退基準をどこに書くか — 東京センチュリーが統合レポートで明文化した例
統合レポートで撤退基準・個別撤退項目・撤退時考慮項目を明文化した東京センチュリーの例と、器を作る前に決める3項目、決めたことを中期経営計画・ニュースリリース・セグメント情報のどこに書くかを、一次資料の実例で解説します。
発行 : アーキタイプ株式会社 / 2026年10月
シリーズ : 金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器(第6回 / 全6回)
本連載は、業界レポート Vol.8「金融・保険業界 新規事業・多角化 実態調査レポート」を、事例から読み直す全6回です。レポートの結論は二つあります。金融に入る事業会社は主に提携で入り、金融機関のうち新規事業の器を作る側は、会社を作って外へ出ること。そして、会社を作って出るなら、作る前に畳み方と承継先を決めておくことです。最終回は、その「作る前に決めること」を、撤退基準の開示例と、決めたことを書く資料の置き場から見ていきます。
本連載では、新規事業を持つ会社や枠組みを「器」、器として終えること(解散・売却・合併・本体への吸収を含む)を「畳む」と呼びます。
当社は金融機関の新規事業創出に参画していますが、本連載の分析はすべて公表資料に基づき、参画先で得た非公開情報は用いていません。本連載は公表資料が存在する取組を取り上げたもので、取り上げた会社の優劣を示すものではありません。
東京センチュリーが統合レポートに書いた撤退基準
レポートでは、金融・保険101社の一次資料(中期経営計画・統合報告書・有価証券報告書・ニュースリリース)を6つの軸で読みました。101社のうち、「判断基準・撤退ルール」の軸に一次資料の根拠が確認できたのは24社です。
その24社の根拠の多くは、株主構成の変更や株式譲渡といった個別の事実でした。当社が確認した一次資料の範囲で、撤退の基準そのものを開示していたのは、24社のうち東京センチュリー1社です。確認できなかった会社に基準が無いという意味ではありません。社内規程として持っていても、公表資料に書かれていなければ外からは確かめられない、ということです。
東京センチュリーは統合レポートで、次の3つを明文化しています。
撤退基準
個別撤退項目(撤退判定の引き金にする財務数値)
撤退時考慮項目
そのうえで、経営会議が案件の継続と撤退を総合的に判断するプロセスを開示しています。24社のうち1社であっても、1社あることは、撤退基準は公表資料に書くことができる、ということを示しています。
撤退基準の作り方そのもの(ステージゲートの設計や判定指標の置き方)は、当社の記事「新規事業のステージゲートと撤退基準の作り方」で整理しています。本記事は、決めた基準を「どこに書くか」に絞ります。
器を作る前に決める項目は3つ
レポートは、器を作る前に決める項目を3つに絞りました。東京センチュリーの3項目とは別の整理なので、分けて読んでください。
撤退判定のトリガーとなる財務数値
判定する会議体
承継先の候補(本体・合弁相手・買い手)
3つ目の承継先が入るのは、畳む形が解散だけではないからです。本体への吸収、合弁相手への売却、買い手への譲渡があり、どの形でも引き受け手が要ります。作る前に承継先を決めておけば、畳むときの事実を親会社自身のリリースで公表できます。決めていなければ、その記録は登記の閉鎖や相手側の開示に残ります。
決めたことを、どの資料に書くか
決めた項目は、書く場所まで決めて初めて外から確かめられます。レポートで一次資料に実例を確認できた置き場は、次のとおりです。

撤退の基準・判定の財務数値・会議体の置き場の実例は、東京センチュリーの統合レポートです。それ以外の項目も既存の資料に置き場があります。非金融の目標は中期経営計画(九州フィナンシャルグループ・秋田銀行)、器の型と認可は認可取得を表題に掲げたニュースリリース(千葉銀行・紀陽銀行・八十二銀行・岩手銀行)、非金融の収益と利益はセグメント情報(イオン・セブン&アイ・伊藤忠商事)や注記(AXA)、畳んだ事実と承継先は親会社のニュースリリースと有価証券報告書の沿革・連結範囲の変更です。第一生命ホールディングスは、戦略投資の枠と使途を中期経営計画に書き、タイのOcean Life Insuranceの保有全株式の譲渡という個別の処分も、同じ資料群で開示しています。枠と使途と処分が同じ資料群にそろう例です。
器を作らない選択も、資料に書けます。松井証券は統合報告書に「子会社を有していません」と明記しています。器を作らなければ、畳む会社もありません。出ない選択も、一次資料に書かれている例です。
3年の順番で、資料に残す
レポートは、出る側の3年を、資料に残す順番で組みました。
1年目 — 決めてから作る。 器の型(本体・子会社・認可・投資)と、新設・取込・転換の別を決めます。撤退判定に使う財務数値と会議体を決め、中期経営計画か統合レポートに書きます。承継先の候補を、本体・合弁相手・買い手の3つで置きます。認可型の器なら、認可取得を表題に掲げて公表します。
2年目 — 分けて開示する。 非金融の収益と利益を、セグメントか注記で分けて開示します。目標の型(比率・金額・目安の水準)を決めて、毎年同じ資料に書きます。投資の器で持つ事業は、投資先の処分を開示する場所を決めます。
3年目 — 語る側を決めて、畳むか続ける。 撤退判定の財務数値に照らして、続けるか畳むかを会議体で決めます。畳むなら承継先を選び、親会社が先に公表します。
担当者の資質の問題としてでなく、器の設計の問題として扱えば、作る前に決める項目は3つで足ります。
自社への問い
撤退判定のトリガーにする財務数値を、作る前に決めたか
それを判定する会議体はどこで、その手順をどの資料に書いたか
承継先の候補(本体・合弁相手・買い手)を置いたか。畳むとき、その事実を誰の名前で公表するか
自社の新規事業の器の型と、決めたことをどの資料に書くかを一緒に点検したい方には、30分の個別相談をご用意しています。
→ 個別相談を予約する:https://calendly.com/kanno-archetype/30min
本記事は連載「金融・保険業界 越境の非対称 — 事例で読む新規事業の器」(全6回)の第6回です。
連載の全記事:
新規事業の撤退基準をどこに書くか — 東京センチュリーが統合レポートで明文化した例(本記事)
資料編: 銀行業高度化等会社 一覧(公表ベース70社・根拠URL付き)と101社の6軸
器の型ごとの畳むときの手間、6軸で見た自社の位置、3年の手順の詳細は、レポート本体(全64ページ・無料)に収めています。
→ レポートを読む:https://archetype.co.jp/download/finance
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