業界別レポート
福岡市の「公共調達第1号」は、その後どうなったか — ファーストカスタマー・アライアンスとは何か
福岡市の公共調達第1号2件は、商用サービス化と東京都の随意契約へ別々に広がりました。初回調達の信用を9自治体で共有するファーストカスタマー・アライアンスの仕組みと、自治体が「最初の顧客」になる機能を公表資料で追います。
発行 : アーキタイプ株式会社 / 2026年9月
シリーズ : 自治体が動かせるもの、動かせないもの — 事例で読む拠点都市(第1回/全6回)
本連載は、業界レポート Vol.7「スタートアップ・エコシステム拠点都市 第1期5年の検証」を、固有名詞から読み直す全6回です。レポートの結論は三つあります。
成果を測る共通の物差しが存在しないこと、裾野は40年の堆積で決まり高さは少数の個社で決まること、そして自治体が自ら動かせるのは「最初の顧客になる」「実証の場を開く」という固有機能だけであること。
第1回は、この三つ目の結論を、福岡市の公共調達第1号という一つの案件から追いかけます。
当社は、複数の自治体・外郭団体・民間拠点による取組に参画していますが、本連載における分析は、すべて公表されている資料・情報に基づいています。参画先で得た非公開情報は使用しておらず、個別の案件について取り上げるものでもありません。また、本連載では、公表資料をもとに分析可能な取組を対象としています。そのため、掲載の有無は各都市や取組の優劣を示すものではありません。
福岡市の「第1号」は、2件ある
福岡市は2023年度に「スタートアップ公共調達サポート事業」を始めました。
仕組みは二つに分かれています。一つは、実証実験で良い結果が得られれば直接契約(公共調達)につながる前提で公募する「先端技術公共調達サポート」。もう一つは、市のトライアル優良商品に認定された商品・サービスが市との契約につながるために、発注可能性のある部署と協議する「トライアル公共調達サポート」です。
第1号案件も、それぞれに一つずつあります。先端技術公共調達の第1号は、人工衛星画像を活用した水道管の漏水調査です(2024年5月・契約事業者はリモート・センシング技術センター、ASTRONETS、TIS九州支社の3社合同)。トライアル公共調達の第1号は、センサー画像のAI解析による交通量調査「MATIENCE」です(2023年11月・62Complex)。
この2件を「第1号」として並べたときに大事なのは、どちらも自治体が補助金や場所を提供したのではなく、自治体が顧客となったという点です。
その後を追うと、経路が二つに分岐
第1号案件がその後どのような展開をたどったのか、公表資料をもとに追いました。
衛星画像の漏水調査は、全国22市町村での実証を経て、2025年に商用サービス「mizuiro」として提供が始まり、国土交通省の上下水道DXカタログにも掲載されました。福岡市での1件の調達を起点に、他自治体での実証へと展開し、その後、商用サービスとして立ち上がっていった事例です。
交通量調査のMATIENCEは、2026年3月、東京都が政策目的随意契約で正規に調達しました。入札を経ない随意契約で、東京都のスタートアップ拠点 Tokyo Innovation Base(TIB)館内の空間利用把握に使われています。この事例では、初回調達の実績が信用財となり、その後の自治体展開につながるという流れが、第1号案件の段階ですでに見られます。

一つの自治体の調達が、なぜ別の自治体の調達につながるのでしょうか。その仕組みが、次に説明するファーストカスタマー・アライアンスです。
ファーストカスタマー・アライアンスとは何か
2025年3月、東京都が立ち上げた「ファーストカスタマー・アライアンス」(FCA)が、福岡市を含む9自治体の参画で稼働を始めました。各自治体が政策目的随意契約で認定した商品・サービスを自治体間で共有し、他の参加自治体は内部手続きの一部を省略して随意契約で調達できる仕組みです。MATIENCEの東京都調達は、この実例の一つです。

FCAの意義は、「最初の顧客」という機能が1自治体の中で完結せず、自治体間のネットワークへ拡張したことにあります。1自治体の初回調達が、参加自治体全体への販路になります。スタートアップにとっては全国横展開の入口であり、大企業にとっても、自治体連携の事業的な利得がはじめて具体的な形をとった例と言えます。
国の調達も、同じ方向に動いている
自治体だけではありません。内閣官房の第7回スタートアップ創出調整連絡会議(2025年1月)の経済産業省資料によれば、国・関係機関が創業10年未満の中小企業から調達する物件・工事・サービスの契約比率は、2020年度の0.83%(777億円)から2023年度の1.39%(1,526億円)へ上がり、目標は「可能な限り早期に3%以上(3,000億円規模)」です。
第2期の拠点形成計画では、公共調達に関するKPIが13拠点中9拠点以上で設定されており、こうした動きは国の方針とも重なります。第2期の始動サミット(2025年8月)では、総合科学技術・イノベーション会議の常勤議員が、自治体による新技術の調達は「スタートアップの初期市場創出や信用力向上を通じた成長促進に寄与する」と述べました。レポートが固有機能と呼ぶものは、国の側からも同じ言葉で名指しされています。
もう一つ、固有機能には「その後」があります。実証から調達・継続への転換率を自ら測って公表している自治体が三系統あり(東京都・神戸市・全国版)、この数値を持つ自治体だけが「行政の実証は死の谷に落ちる」という通念を数字で否定できます。福岡市の第1号2件も、公表資料からその後の展開を追うことで、初回調達の実績が別の自治体や市場での信用につながっていく過程を確認できました。この点については、第3回で詳しく扱います。
なぜ「最初の顧客」だけが固有なのか
アクセラレーターも、コワーキングも、補助金といった支援機能は、必ずしも行政だけが提供できるものではありません。VCやアクセラレーター事業者、コワーキング事業者、大企業の共創拠点なども、同様の機能を日常的に担っています。
しかし、「行政の課題を行政の予算で解決する相手を選び、最初に買う」ことと、「水道・交通・施設・学校という行政の資産を実証の場として開く」ことは、行政だからこそ担える役割です。
価値の中身にも注意が要ります。国の調達に占める創業10年未満企業の比率は2023年度で1.39%にすぎず、販路として大きいわけではありません。むしろ重要なのは、価値は金額ではなく、初回調達が信用財になることにあります。
福岡市の第1号2件が、商用サービスと東京都の随意契約へ分かれて広がったのは、その信用財が別の市場や自治体での信用へとつながった記録です。
「最初の顧客」という役割が行政に固有なのは、行政の課題を行政の予算で解決する相手を選び、最初に買う主体が行政以外にないからであり、顧客となった実績が信用財として外へ移動するからです。
自社への問い
自治体から実証や共創の打診が来たとき、最初に確認すべきは施策メニューの厚さではありません。相手が「最初の顧客」を制度として設計しているかです。
随意契約の認定制度を持っているか。ファーストカスタマー・アライアンスに参加しているか。調達第1号を公表しているか。
この三つが一つもなければ、その連携から得られるのはアクセラレーターやピッチイベントと同じもの、つまり民間でも得られるものです。
次回は、この「最初の顧客」という機能を民間で最初に仕組みにした BMW のベンチャークライアントモデルと、福岡市・FCAがそれをどう行政に翻訳したかを見ていきます。
本記事は連載「自治体が動かせるもの、動かせないもの — 事例で読む拠点都市」(全6回)の第1回です。
連載の全記事:
福岡市の「公共調達第1号」は、その後どうなったか — ファーストカスタマー・アライアンスとは何か(本記事)
ベンチャークライアントモデルの行政版 — BMW がやったことを、福岡市とファーストカスタマー・アライアンスはどう再現したか
UPGRADE with TOKYO は「その後」を測っている — 実証から調達への転換率を公表する自治体だけが言えること
自治体から実証や共創の打診が来たら、最初に確認する3点 — 随契認定・ファーストカスタマー・アライアンス参加・転換率の公表
6. 特定創業支援の創業者は10年で4倍超に — それでも全国の開業率が下がる理由
記事の元になった業界レポート「スタートアップ・エコシステム拠点都市 第1期5年の検証 — 自治体が動かせるもの、動かせないもの」(全47ページ)を無料で公開しています。8都市圏×4年の進捗報告の時系列、47都道府県の開業率の政策前後比較、固有機能×リターン対応表、行政への7提言まで収録しています。
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